2017 Fiscal Year Research-status Report
個体の環境応答行動を制御する光センシング機構の解明
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15K07144
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
小島 大輔 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 講師 (60376530)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 光生物学 / ゼブラフィッシュ / 体色変化 / 網膜 / オプシン |
Outline of Annual Research Achievements |
動物の体色変化を制御する光受容分子の実体に迫るため、真骨魚類ゼブラフィッシュを動物モデルとして次のように研究を進めた。 ◎オプシン遺伝子群のノックアウト系統における体色変化の測定: 私たちのこれまでの研究により、5日齢幼生の背地適応型の体色変化には、波長感度の異なる2種類の仮想的な光受容分子P416とP470が関与すること、また、P416は視細胞に存在することが示唆された。そこで、この波長周辺に吸収極大をもつ青色感受性錐体オプシン遺伝子sw2のノックアウト系統(昨年度樹立)を用いて、青色光に対する背地適応型の体色変化を測定したところ、野生型と有意な差は検出されなかった。視細胞に存在する別のオプシン遺伝子の関与が示唆された。 またこれまでの成果により、P470の有力候補としてメラノプシン遺伝子群が示唆されている。そこで、5種類のメラノプシン遺伝子それぞれの単独ノックアウト系統(昨年度樹立)を用いて緑色光に対する背地適応型の体色変化を測定したところ、ある単一のメラノプシン遺伝子のノックアウト系統のみが体色変化量の有意な減弱を示した。このメラノプシン遺伝子は、P470として体色変化を光制御すると考えられる。 ◎背地適応型の体色変化を制御するオプシン遺伝子の発現細胞の可視化: 上記のP470相当遺伝子の発現細胞を可視化するため、この遺伝子プロモータ直下に蛍光タンパク質Venus遺伝子を結合したDNAコンストラクトを作製し、これを用いて組換えゼブラフィッシュ系統を樹立した。この組換え個体の網膜において、P470相当遺伝子を発現する細胞(一部の双極細胞)にVenus由来の蛍光が観察された。また、従来から背地適応の光制御に主要な役割を果たすと考えられている「背側網膜」において、P470相当遺伝子の発現がより強いことがこの解析によって明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前年度にゲノム編集により樹立した、オプシン遺伝子6種類(青色錐体オプシン遺伝子やメラノプシン遺伝子群)の単独ノックアウト系統の解析を行い、メラノプシン遺伝子の一つをP470の分子実体として同定することに成功した。さらに、この遺伝子の発現パターンを詳細に解析したところ、背地適応の光制御に主要な役割を果たす「背側網膜」において、より強く発現することを見出した。これらの成果は、背地適応型の体色変化の光制御メカニズムを解明するうえで、非常に大きな進展である。一方、幼生型の体色変化を光制御する光受容体の同定を当初は計画していたが、本年度は背地適応型の解析に注力したため、未完了のままである。ただし、幼生型の体色変化における光作用スペクトル解析が完了しつつあり、その結果により光制御を担う候補遺伝子の絞込みをする予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
上述のとおりこれまでの研究により、メラノプシン遺伝子の一つをP470として同定したが、視細胞に存在するP416の分子実体の特定には至っていない。そこで今後は、視細胞に発現するオプシン遺伝子のうち、青色感受性錐体オプシン遺伝子以外もターゲットとして、体色変化への関与を検討する。一方、P470発現細胞をin vivoで蛍光タンパク質ラベルすることに成功したので、今後は「この細胞自身が光受容細胞として機能すること」を検証するため、蛍光タンパク質ラベルを指標に単一細胞での電気生理学的な光応答解析を行う。これと並行して、Caイオンインジケータの導入によるCaイメージング解析も行い、多方面からP470発現細胞の光応答を検証する。また、幼生型の体色変化における光作用スペクトルを決定し、その結果から、光制御を担う候補遺伝子を絞込む。これらの候補遺伝子の機能解析を行い、幼生型体色変化の光制御メカニズムに迫る。
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Causes of Carryover |
本研究の大きな目的の一つは、動物の体色変化を制御する光受容体の同定である。平成29年度の研究により、P470に相当する光受容体遺伝子を同定し、その発現細胞が蛍光タンパク質で標識された組換えゼブラフィッシュ系統の作製に成功した。この蛍光標識細胞の光応答測定実験を平成29年度中に予定していたが、組換えゼブラフィッシュ系統の樹立に予想よりも多くの時間を要したため、平成30年度に本実験を持ち越せざるを得なくなった。また、P416に相当する光受容体遺伝子、ならびに幼生型体色変化を制御する光受容体遺伝子の同定が完了していないため、H30年度にさらなる候補遺伝子の機能解析を行うよう計画を変更した。 そこでH30年度は、オプシン発現細胞の光応答測定実験や、変異動物を用いた機能解析を行うため、38万円を消耗品費として使用する予定である。また、共同研究を行うための出張費用(旅費)、学会にて成果発表するための出張費用(旅費)、ならびに原著論文として成果発表するための費用(論文掲載料)として計25万円を使用する予定である。
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Research Products
(7 results)