2017 Fiscal Year Research-status Report
グリーンヒドラ共生系における動物-藻類-細菌間相互作用とゲノム進化
Project/Area Number |
15K07173
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
濱田 麻友子 岡山大学, 理学部, 特別契約職員(助教) (40378584)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 共生 / ゲノム / 進化 / ヒドラ / クロレラ |
Outline of Annual Research Achievements |
刺胞動物グリーンヒドラは特定のクロレラを細胞内に共生させている。本研究ではグリーンヒドラを動物―藻類の共生モデルシステムとし、ホストであるグリーンヒドラと共生体であるクロレラ両方のゲノム情報から動物―藻類共生システムの理解を深めることを目的としている。それに加え、この共生システムへの細菌やウイルスなど微生物の関与を明らかにすることで、動物―藻類―微生物コミュニティにおける相互作用とゲノム進化を明らかにしたい。前年度までにグリーンヒドラと共生クロレラ両方のゲノム解読を終え、遺伝子モデルの構築とそのアノテーション付けを行い、解析の基盤を整えた。さらに共生クロレラにおける欠失遺伝子、重複遺伝子、水平伝播遺伝子の中から、特に光合成や代謝、生体防御など共生システムに関わっていると考えられる遺伝子を同定した。 平成29年度は上記の共生クロレラ遺伝子の比較ゲノム解析と系統解析を行い、共生クロレラの進化の過程を考察した。共生クロレラはヒドラからアミノ酸を供給されているとされており、実際そのゲノムには非常に多くのアミノ酸輸送体遺伝子が存在していた。系統解析の結果、クロレラの共通祖先ですでにこの遺伝子の重複がある程度起こっていたことが明らかになった。このことはクロレラ属が環境中から効率的にアミノ酸を取り込めることを示唆しており、クロレラ属において頻繁かつ独立に共生性が出現していることの理由かもしれない。その一方、ヒドラの共生クロレラではいくつかの窒素代謝遺伝子の欠失や、細菌からの水平伝播による二次代謝産物の合成酵素遺伝子の獲得とその構造の複雑化が起こっているが、これらはヒドラの共生クロレラで独自に起こったと考えられ、共生生活への特異的な適応を反映している可能性がある。以上の結果は論文としてまとめ、投稿中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究ではグリーンヒドラとその共生クロレラのゲノム解析を行い、動物―藻類共生システムの成立と維持のメカニズムやそのゲノム進化を理解することに加え、グリーンヒドラ共生系における細菌やウイルスなど微生物の関与を明らかにすることを目的としている。平成29年度は、グリーンヒドラゲノム、共生クロレラゲノムにおいて欠失、重複、水平伝播をおこした遺伝子の中から、特に光合成や代謝、生体防御など共生システムに深く関わっていると思われる遺伝子を同定し、その系統解析を行った。これらの解析から共生クロレラに特徴的な興味深い性質を明らかにできたことに加え、クロレラ属における共生クロレラの進化の過程を理解することができた。また、微生物からの水平伝播遺伝子が、細胞壁や二次代謝産物の合成などの共生クロレラの特異な性質に寄与していることがわかった。以上のように共生クロレラのゲノム解析についてはほぼ完了し、その成果を論文として投稿することができた。 本研究では共生クロレラだけでなく、ホストであるグリーンヒドラのゲノム解析も行うことで、この共生コミュニティの全容を明らかにすることを目標としており、これまでにIllumina HiseqとMiseqを用いたこれらのゲノム解読は完了している。しかし、平成28年度に沖縄科学技術大学院大学から岡山大学へ異動したこと等が原因で、ヒドラゲノム解析の予定が後倒しになっている。また、最近販売となった第三世代シークエンサーNanopores社MinIONの導入によって、さらに質の高いゲノム配列が得られると考え、当初の計画には無かったMiNIONを用いたヒドラゲノムシークエンスを試みている。以上のことから当初予定していたグリーンヒドラゲノム解析がまだ完了していないため、本研究計画の達成度は「やや遅れている」とした。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度までに共生クロレラのゲノム解析については、ほぼ予定を完了したので、本年度はこれらの成果を論文としてまとめ、公表するつもりである。また、本年度はホストであるグリーンヒドラのゲノム解析を完了させる予定である。これまでにグリーンヒドラのゲノム解読と遺伝子モデルの構築は完了し、自然免疫系遺伝子の重複やバクテリアからの水平伝播による二次代謝物合成酵素の遺伝子の獲得など、興味深い特徴があることが予備的にわかっている。今後はこれらの遺伝子の系統解析・発現解析を行い、グリーンヒドラ共生系における役割や共生ゲノム進化の過程を考察したい。さらに、グリーンヒドラゲノムシークエンスから、共生細菌由来であると思われるゲノム配列を分離することができた。この配列を利用し、ヒドラ細胞内に存在する共生細菌のグリーンヒドラ共生系への関与について明らかにしたいと考えている。 グリーンヒドラゲノムを他のヒドラ属や刺胞動物のゲノムと比較すると、ゲノムサイズやミトコンドリアゲノムなどの点で刺胞動物の原型を保っていることから、刺胞動物の進化の面でも非常に興味深い。そこで、グリーンヒドラゲノム解析においては、遺伝子のシンテニーやクラスター構造の比較解析も行いたいと考えている。そのために、MinIONとIlluminaによるシークエンシングを併用することで、より質の高いシークエンスデータを得たいと考えている。本年度は以上のようにホストであるグリーンヒドラ解析を完了させ、ヒドラ―クロレラ―バクテリア共生システムの相互作用とそのゲノム進化を考察し、論文としてまとめることを目指す。
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Causes of Carryover |
購入予定であったゲノム解析用のコンピューターに関しては、国立遺伝学研究所のスーパーコンピューターを使用することにしたため購入を控えた。また、共生細菌のゲノムシークエンスに使用する予定であった試薬は、ヒドラシークエンス中に存在している共生細菌のシークエンスをアセンブル後に分離することができたため購入を控えた。その一方、Nanopore MiNIONによるゲノムシークエンスとIllumina Miseqによるトランスクリプトーム解析を追加で行うことにしたため、差額分をDNA、RNA抽出用のキットや MiNION、Miseqのシークエンス用試薬に回すことにした。 本年度はシークエンス用の予算としてNanopore MinIONの試薬の購入のための試約(試薬合計約20万円)、Illumina用のサンプル調整キットとシークエンスキット(合計約30万円)購入に加え、一般試薬・消耗品として分子生物学実験用の試薬・実験器具用のガラス製品ガラス・紙、プラスチック製品の購入を計画している(約50万円)。また国内旅費として4回の国内学会・研究会参加のための費用(約15万円)を計画している。
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