2015 Fiscal Year Research-status Report
嫌気環境に対する適応進化の初期段階にある退化的ミトコンドリアの機能解明
Project/Area Number |
15K07176
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Research Institution | Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology |
Principal Investigator |
瀧下 清貴 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 海洋生物多様性研究分野, 主任研究員 (90392951)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 原生生物 / 嫌気 / ミトコンドリア |
Outline of Annual Research Achievements |
近年,様々な系統群に属する嫌気性真核微生物が有する退化ミトコンドリアに関する研究が行われた結果,退化ミトコンドリアの極めて大きな代謝的多様性が明らかにされてきた。本研究ではIllumina HiSeq 2000を用いたRNA-seq解析により,嫌気性自由生活型のストラメノパイル生物Cantina marsupialisが有する退化ミトコンドリアの代謝機能を推定した。その結果,退化ミトコンドリアの一種であるハイドロジェノソームでピルビン酸代謝に関与することが知られているピルビン酸:フェレドキシン酸化還元酵素,鉄ヒドロゲナーゼおよび酢酸:コ ハク酸CoA転移酵素がC. marsupialisの退化ミトコンドリア内で機能していることが示唆された。さらに,アセチルCoA合成酵素もその退化ミトコンドリア内に存在することが示唆された。その一方で,アミノ酸代謝,鉄硫黄クラスター生合成,(部分的)TCA回路等,好気性ミトコンドリアに普遍的に存在する酵素群がC. marsupialisの退化ミトコンドリア内で機能していることも示唆された。また,電子伝達系では複合体I,III,IV,F1F0-ATP合成酵素をコードする転写産物は検出されなかったが,複合体IIを構成するサブユニットをコードする転写産物は検出された。HPLC解析によりキノン分析を行ったところ,C. marsupialisからユビキノンが検出された。これまでに多くの嫌気性(あるいは嫌気耐性)真核生物において,電子伝達物質として低酸化還元電位を有するロドキノンが検出されており,複合体IIはフマル酸還元酵素として働くことが報告されている。しかし,今回検出されたユビキノンが有する高い酸化還元電位を考慮すると,C. marsupialisの退化ミトコンドリアでは複合体IIはコハク酸デヒドロゲナーゼとして機能していると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の予定では,平成27年度内にCantina marsupialisのトランスクリプトーム解析を終了させ,退化ミトコンドリアの機能推定を行うこととなっていたが,予定通り遂行することができた。退化ミトコンドリア内にゲノムが存在する場合には,その解析を行う予定であったが,ミトコンドリア内での転写・翻訳に関わるタンパク質をコードする遺伝子が全く検出されなかったため,当該オルガネラ内にはゲノムが存在しないことが示唆された。
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Strategy for Future Research Activity |
Cantina marsupialisの退化ミトコンドリア内で機能する特徴的なタンパク質(例えば嫌気的ピルビン酸代謝に関わるタンパク質等)の詳細な分子系統解析を行い,その進化プロセスを推定する。トランスクリプトーム解析の過程で,C. marsupialisではミトコンドリア特異的脂質であるカルジオリピンの合成経路が,これまでに知られている他のストラメノパイル生物のものと異なることが示唆されたため,この合成経路の進化に関しても,分子系統解析等によって解明する。
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Causes of Carryover |
次世代シークエンスのための費用が予想より低くなったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
追加のシークエンスを行うとともに,その作業のための人件費に用いる。
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Research Products
(4 results)