2016 Fiscal Year Research-status Report
絶滅の危機に瀕している貧栄養湖深底部の貧毛類相の解明
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15K07178
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Research Institution | Hirosaki University |
Principal Investigator |
大高 明史 弘前大学, 教育学部, 教授 (20223844)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 貧毛類 / 貧栄養湖 / 深底部 / 地下水 / 絶滅危惧種 / 系統分類 |
Outline of Annual Research Achievements |
1940年代に酸性水の導入によって絶滅したことが知られる田沢湖深底部にかつて生息していた貧毛類の組成を推測する一環として,田沢湖の集水域と近傍の秋田県南横手市と大仙市の湧水域で調査を行い,7種類の貧毛類を確認した.このうち,田沢湖集水域の湧水域からミズミミズ科イトミミズ亜科ビワヨゴレイトミミズを,横手市山内地区からは同じくイトミミズ亜科のアムールヨゴレイトミミズの標本が得られた。アムールヨゴレイトミミズはアムール川や北海道で普通の冷水性イトミミズ類の一種で,田沢湖深底部で記載され,絶滅したとされるPeloscolex nomuraiと最も近縁だとみなされている種類である.これまでの分布記録の南端は青森県の白神山地であったことから,今回の秋田県からの記録は南限を更新することになり,田沢湖の深底部にかつて生息していた貧毛類がこの種である可能性も示唆される.田沢湖集水域からは未記載のオヨギミミズ科の一種も見つかった. 日本で屈指の貧栄養湖で,10年前の調査では未記載と思われる貧毛類が見つかっている北海道の倶多楽湖で,8月に調査を実施した.沖合の3地点で多数の採泥をおこなったものの,10年前に確認された種類は全く採集されなかった.湖底は有機物の残渣が多く,貧酸素状態になっていたことから,かつての種類はすでに消失した可能性が高い. 同じく8月に行った猪苗代湖深底部の調査では,かつて(2005年)の湖底では全域で優占していたナガレイトミミズはわずかしかみられず,群集の大部分がイトミミズTubifex tubifexで構成されていた.湖水が中性に近づいていることと,湖底の貧酸素化がはじまっていることに関連している可能性が指摘された.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の研究計画で予定していた摩周湖と支笏湖の深底部における貧毛類の採集調査は平成27年度までに,同様に,田沢湖集水域と倶多楽湖深底部での採集調査は,平成28年度に予定どおり実施することができた.しかし,倶多楽湖では,以前採集された未記載種と思われる貧毛類の生息は確認できず,湖底環境の変化によって底生動物の消失が危惧される状況であることがわかった.また平成28年度に行った猪苗代湖深底部での調査でも,貧毛類群集が2005年当時の組成と大きく異なっていることが指摘された.湖沼環境の変化が予想以上に進んでいることが主要な原因であると思われる.このような状況により,全般として,これまで採集されている貧毛類は,当初見込んでいた種類に満たず,個体数も十分とは言えない状況にある.次年度は,湖内よりも集水域の地下水環境での調査によって,標本を確保する必要が浮かびあがった.
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Strategy for Future Research Activity |
先の2年間で,予定していた摩周湖や支笏湖,倶多楽湖での湖内での調査はおおよそ終了した.平成29年度は,これまで採集された標本について形態学的な観察を行うが,予想を上回る湖底環境の急速な変化のため,予定していた一部の種類は採集されず,また,標本数も不足している.このため,平成29年度の調査では,かつて深底部に生息していた種類が残っている可能性がある集水域に重点を置いて進める予定である.また,湖底と同様に温度変化がなく貧栄養の地下水を念頭において,湧水帯や河床間隙などでも採集調査を行う予定である.確保された標本は,引き続き,形態観察によって分類学的な位置を明らかにするとともに,遺伝子解析を行い,系統学的な位置を確定させる.遺伝子解析については,昨年度に引き続き,国立環境研究所,および,スウェーデンのCrister Erseus 教授の研究室との共同で実施する予定である. これらの結果をとりまとめて,日本の貧栄養湖深底部に見られる貧毛類群集の組成をとりまとめるとともに,群集の特徴について議論する.分類学的位置や系統学的位置を明らかできた未記載種については,すみやかに新種記載を進めるとともに,その由来について考察する.これまでの調査で,日本の貧栄養湖の湖沼環境は,近年,大きく変化しており,それに伴って貧毛類をはじめとする深底部の動物群集も変化している可能性が指摘されている.課題を明確にするために,日本の湖沼の湖底環境と底生動物群集についての情報を集約して,現状を総括する.
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Research Products
(8 results)