2016 Fiscal Year Research-status Report
日本産アリ類における「隠れた種多様性」の解明~統合的アプローチの提案~
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15K07193
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
江口 克之 首都大学東京, 理工学研究科, 准教授 (30523419)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
鶴崎 展巨 鳥取大学, 地域学部, 教授 (00183872)
小栗 恵美子 首都大学東京, 理工学研究科, 客員研究員 (10608954)
秋野 順治 京都工芸繊維大学, 昆虫先端研究推進センター生物資源フィールド科学研究部門, 教授 (40414875)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | アリ / 隠蔽種 / integrated taxonomy / DNA barcoding |
Outline of Annual Research Achievements |
以下の種/種群を主たる対象として、研究を進めている:Cerapachys sulcinodis種群(東南アジア)、フタイロマガリアリ種群(東南アジア)、Odontomachus monticola種群(日本~東南アジア)、オオハリアリ種群(日本~東南アジア)、Acanthomyrmex glabfemoralis種群(東南アジア)、オオズアリ種群(日本~東南アジア)、アメイロアリ種群(日本および周辺地域)。 ミトコンドリアCO1および核ITS1を分子マーカーとして用いた系統解析や、詳細な形態比較により、A. glabfemoralis種群が複数の生物学的種や遺伝的に明瞭な集団からなる種群であることが明らかになりつつある。本年度は、ベトナム北部~中部、台湾(本島南部および蘭嶼)においてコロニーの採集と飼育を行った。新規標本を含めた分子系統解析では台湾の蘭嶼及び墾丁国家公園の集団(A. crassispinusと命名されている)が、ベトナム北部の集団とともに単系統群を構成し、後者が前者に対して側系統となることが明らかとなった。また、ベトナム中部におけるほとんどの集団が通常の有翅女王によって繁殖を行っている一方で、ベトナム北部のいくつかの集団と台湾の2集団では胸部が縮小し翅の退化した無翅女王によって繁殖が行われていることがわかった。台湾の集団の再記載、社会構造、2つのCO1ハプログループの分布パターンに関する論文を近日中に投稿予定である。 Acanthomyrmex属の分子系統解析、詳細な形態比較、社会構造の検討の過程で、マレー半島から1新種を認識した。本種では、形態に明瞭に異なる2つのタイプの女王が同一コロニー内に存在することが明らかとなった。本属における分散・繁殖様式の多様化を考察する上で、非常に意義深い発見である(近日中に投稿予定)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「研究実績の概要」において示したように、Acanthomyrmex glabfemoralis種群を対象とした研究で、大きな進展があった。加えて、ベトナムや台湾から採集し、飼育しているA. glabfemoralisコロニーから得られた前蛹段階の幼虫の頭部神経節組織を用いて、核型の観察にも成功した。 中央アフリカおよびマダガスカルからのみ知られていたXymmer属をベトナム中部で発見し、新種X. phungiとして記載し、分布様式について議論した(Satria et al. 2016)。その際、マイクロX線CTを用いて小型の対象物(体長2.5mm程度のX. phungiの働きアリ)を高精度で3次元イメージングする手法の検討を行った(YouTube上でサンプル動画を公開)。 DNA barcodingと詳細な形態比較からなる統合的アプローチを、ハエトリグモ類の分類学的再検討に適用した(Phung et al. 2016)。ハエトリグモ類では雌雄の形態的差異が顕著であるため、種分類体系が混乱している。したがって、統合的アプローチによる分類学的再検討が必要不可欠である。 東アジアから東南アジアに産するAnochetus rugosus種群について分類学的再検討を行い、A. yunnanensis Wang, 1993が A. mixtus Radchenko, 1993の新参シノニムであることを明らかにした(Satria et al. 投稿中)。その結果、Anochetus属や姉妹群であるOdontomachus属において、雄の交尾器に種分類形質が数多く存在することが明らかとなった。 以上の進捗状況を鑑みて、我々は本研究が「おおむね順調に進展している」と考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
以上の進捗状況を踏まえ、平成29年度は以下のように研究を推進する。 国内、台湾およびベトナムで研究対象種・種群の標本採集を進める。 すべての対象種・種群について、ミトコンドリアCO1や核ITS領域の塩基配列に基づくDNA barcodingを継続する。既に標本がかなり集まっているフタイロマガリアリ種群、オオハリアリ種群、オオズアリ種群、アメイロアリ種群について、マイクロサテライト・マーカーを用いた集団遺伝学的解析も行い、様々な地理的スケールでの集団遺伝学的構造を明らかにする。 実験室での飼育が容易なフタイロマガリアリ種群、A. glabfemoralis種群などを対象として、体表炭化水素組成分析や核型分析の手法を確立する。 また、A. glabfemoralis種群、O. monticola種群などを対象として、micro X-Ray CTによる働きアリの3Dイメージング、形態測定の手法を確立する。 以上の手法を複数組み合わせた統合的アプローチ(integrated taxonomy)を実践的に用いて、以下の分類群について、隠蔽種の探索と、種分類体系の再検討を行う:A. glabfemoralis種群;Odontomachus monticola種群;ベトナム産オオハリアリ属;台湾産クロアリガタバチ属(膜翅目:アリガタバチ科);ベトナム産Phintella属(クモ目ハエトリグモ科);日本産アゴナガヨコエビ属(端脚目:アゴナガヨコエビ科)。
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Causes of Carryover |
核型分析と体表炭化水素組成分析に用いる標本の入手が遅れたため、当該年度に予定していた解析の一部を平成29年度に繰り越すことにした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
フタイロマガリアリ種群、A. glabfemoralis種群などのコロニーを実験室で飼育できているので、核型分析に必要な前蛹や体表炭化水素組成分析に必要な働きアリの生体が入手可能となった。そこで、平成29年度はこれらの分析を集中的に行う予定である。また、繰越額はこれらの分析を行うための実験試薬・消耗品購入に当てる予定である。
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Research Products
(10 results)