2016 Fiscal Year Research-status Report
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15K07204
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Research Institution | National Museum of Nature and Science, Tokyo |
Principal Investigator |
海老原 淳 独立行政法人国立科学博物館, 植物研究部, 研究主幹 (20435738)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | シダ植物 / 種形成 / 倍数体 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究の基盤情報として、日本産シダ植物種の海外における倍数性・生殖様式の情報収集を継続した。本年度はメシダ科・オシダ科・ウラボシ科約500分類群を対象に文献に基づいた情報を収集し、これで全ての日本産種について、海外における倍数性・生殖様式の情報の比較が可能な状態になった。日本国内で知られているものとは異なる倍数性・生殖様式が海外から報告されている例が約90種において見出された。種・亜種・変種に限って見ると全体の約22%(161)の分類群に種内倍数体の存在が確認された。一方で学名の定義が統一されておらず、文献記録のみでは、単純な比較は困難と思われる例も散見されたため、より実証的な比較を行うことの重要性が示唆された。また、国内の材料において倍数性・生殖様式が全く観察されたことがない種が、依然として全体の約26%存在している状態であったため、生材料が入手可能であったヒュウガシケシダなど5分類群について新たに染色体数・生殖様式の報告を行った。 日本国内に倍数性の変異が存在することが確実でありながら、十分な解析が行われていない集群については各地から材料の収集を進めた。特にアオホラゴケCrepidomanes latealatumについては十分な材料が収集されたため、倍数性と葉緑体・核DNAマーカーによる解析を行い、国内の倍数性分布の概況と、網状進化過程の推測結果がまとめられた。一方で、Microlepia、Deparia、Thelypteris等の材料についても、材料収集を進めて、葉緑体rbcL遺伝子の塩基配列決定までを行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の遂行にあたって最も重要な基盤情報の収集は完了し、それに基づいた研究対象分類群の絞り込みと材料収集が順調に行われている。標本情報に基づいた倍数性の推定は、現在のところ数分類群で着手した段階であるが、国立科学博物館所蔵の国内産シダ植物標本は本年度までに再同定と電子化が全て完了しており、この後効率的な観察が期待できる。核DNAについては、アオホラゴケ群での解析が進んでおり、協力研究者からシダ植物で使用可能な追加の核マーカーについたの情報が多数もたらされている。
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Strategy for Future Research Activity |
国内産の材料については、現在の研究実施体制における研究協力者の尽力によって多くが網羅される状況にある。一方で、本研究課題の遂行の上では海外産の材料との比較も欠かせないものと言える。本研究において海外で網羅的調査を行うことは現実的でないことから、効率的に研究を遂行するためには、標本からより多くの情報を引き出す工夫が必要となる。現在のところ、形態情報の他、胞子サイズ・孔辺細胞サイズを利用して進めているが、さらに標本自体の遺伝情報の利用も重要であるものと考えられる。採集から数10年以上が経過した標本において長いDNA断片の塩基配列特定を行うのは容易ではないが、次世代シーケンサーを用いて短い断片を得ることは理論的に可能である。現在別課題で行われている次世代シーケンサーを用いた標本DNA解析に、本課題の材料の一部を比較用サンプルとして供出することを予定している。本研究課題の支出を増やすことなく、新たなデータが得られるものと期待される。
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Causes of Carryover |
材料が一式揃った分類群から核DNAマーカーを用いた解析を行う方針に従った結果、当年度に試薬を必要とした解析まで実施した分類群が予定より少なかったため。 また、研究協力者からの厚意で郵送によって入手できた材料が多かったため現地調査を実施しなかったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度に集中的かつ効率的にDNA解析を実施する計画とし、次年度使用額は実験補助者の作業日数を増やすと共に、試薬については大容量パッケージで購入して単価の低減を図る予定である。
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Research Products
(6 results)