2015 Fiscal Year Research-status Report
琵琶湖産自然雑種オオササエビモにおける母系効果の分子的基盤と個体群特性の解析
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15K07221
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
飯田 聡子 神戸大学, 理学(系)研究科(研究院), 理学研究科研究員 (60397817)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 自然雑種 / 水生植物 / 母系効果 / 遺伝子発現 / 琵琶湖 / オオササエビモ |
Outline of Annual Research Achievements |
水生植物の自然雑種,オオササエビモ(ヒルムシロ科)は,ササバモとヒロハノエビモを両親種とし琵琶湖に多産する.これら両親種は近縁であるが生態的特性は対照的であり,ササバモは比較的浅い水域に分布し,渇水時には気孔が分化した陸生葉をつけて陸上でも生育でき,水陸移行帯に適応している.一方,ヒロハノエビモは比較的深い水域に分布し,渇水時には枯死し,生育は水中に限定される.これまでの研究から,オオササエビモの渇水時の陸上での生存能や深度分布が母親となった種の特徴を示す,すなわち母系効果の存在が示唆されている.本研究の初年度にあたる平成27年度は,オオササエビモの両親種において,遺伝子発現レベルでの種間の違いを明らかにするため,気孔形成やABA合成に関わる遺伝子の解析をすすめたほか,高温ストレスを与えた植物体から抽出したRNAをもとに,高速シーケンス解析を行った.またオオササエビモの野外集団における分布調査,および研究材料の採集を行い,母系や形態的特徴,生育場所の特徴が異なるサンプルを得た. 今後の研究では,高速シークエンス解析の結果について情報解析を行い,熱ショックタンパク質や酸化ストレス関連のタンパク質を中心に,両親種間で遺伝子発現の制御が異なる分子種を探索する.またそれらの遺伝子が自然雑種においてどのように発現しているのかを調べ,母系との関わりを明らかにする研究を展開する.研究では,野外から得られた自然雑種の系統について比較栽培実験を行い,2種類の母系統において,渇水耐性や生育水深以外の生態学的な特性においてどのような分化が生じているのかを検討することも行う予定である. 本研究は野外に生育する多年生の自然雑種において,遺伝子発現制御の変異と生態的特性,および母系統との関わりを解明することで,生態学分野における新しい研究領域を開拓する意義がある.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では,自然雑種における生態的特性と母系効果の遺伝的背景を解析することを,二本の柱としている.初年度の研究では,生態的特性の解析については,計画の通り,2種類の母系統が分布している個体群において,植物の採集調査を行った.一方,遺伝的背景の解析については計画の変更を行った.当初の計画では,今年度はオオササエビモの両親種間で遺伝子発現のON/OFF調節が異なる特定の分子種に着目し解析する予定だった.しかし研究材料であるヒルムシロ属植物は,ゲノム情報がほとんど解析されていない野生の植物であり,手元にある分子レベルの情報が極めて断片的であること,また高速シーケンス解析が手軽に利用できるようになってきたことから,計画の変更をおこなった.具体的には本年度,次世代シークエンサーを用いた高速シーケンス(RNA-seq)解析を行い,種間で発現パターンが異なる分子種を探索することから研究を開始することとした.先行研究で両親種は高温ストレス条件での熱ショック転写因子の遺伝子発現が明確に異なることが示されていたことから,高温ストレス条件で植物からRNAを抽出し高速シーケンス解析に使用した.なお計画では,遺伝子発現パターンだけでなく,遺伝子発現制御に種差をもたらす機構の一つであるDNAメチル化状態を解析する計画であった.しかし遺伝子発現制御の調節には他の要因も多く知られていること,また野生植物ではDNAメチル化解析に必要なゲノム情報を得ることが技術的に難しいことから,本研究では実施しないこととした. このように,遺伝的背景の解析については,研究計画の変更を行ったが,これらの変更によって,今後,雑種の母系効果の遺伝的背景についてより効率的に検討していくことができると考えている. 以上より,現時点では本研究の研究達成度を「おおむね順調に進展している」と判断している.
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究では,高速シークエンス解析の情報解析をすすめ,両親種で遺伝子発現制御が異なる分子種を明らかにした上で,自然雑種においてそれらが,遺伝子発現レベルで母系統と相関するのかを明らかにする方針である.高速シークエンス解析から得られた膨大なデータから必要な情報を抽出するため,先行研究より関連が示唆されている高温ストレス耐性に重要な熱ショックタンパク質や,酸化ストレス耐性関連の遺伝子に特に注目し,情報解析を進める.また解析を確実に進めるため,関連する講習会を受講し,技術を習得するほか,国立遺伝学研究所が開発・提供するクラウド型解析ツールを活用する. 自然雑種の生態特性については,野外から得られた自然雑種の系統について,比較栽培実験を行い,渇水耐性や生育水深以外の生態学的な特性においてどのような分化が生じているのかを検討する. さらに本研究テーマを発展させ,遺伝子発現制御が介する母系効果を,将来的により広範な自然雑種において解析していく準備も行う.具体的には,自然雑種を形成することが知られているヒルムシロ属の他の近縁種のペア,すなわちヒルムシローササバモ(雑種アイオコヒルムシロ),ガシャモクーササバモ(雑種インバモ)について,オオササエビモの両親種に行ったのと同様の手順で高速シークエンス解析と情報解析を行い,同様の遺伝子発現制御の分化が種間でおきており,他の自然雑種において母系効果を生じる可能性について検討する.
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