2015 Fiscal Year Research-status Report
一夫多妻社会をもつ性転換魚類におけるメスの戦術的駆け引きに関する研究
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15K07222
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
坂井 陽一 広島大学, 生物圏科学研究科, 教授 (70309946)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 性転換 / 一夫多妻 / ハゼ科 / 飼育実験 / 産卵能力 / 逆戻りコスト / スズメダイ科 |
Outline of Annual Research Achievements |
一夫多妻魚類にみられる性表現と繁殖戦術の実態を探索することを目的とした本研究課題において、初年度は当初計画通りに「逆戻り性転換の産卵機能上のコストを評価する飼育実験」を実施した。研究対象には一夫一妻社会を持つハゼ科オキナワベニハゼに加え、やはり双方向性転換能力を有することが知られているハゼ科イレズミハゼも用いた。オキナワベニハゼは鹿児島県南部沿岸域で、イレズミハゼは沖縄本島沿岸域でそれぞれ採取した個体を広島大学の施設での実験飼育に供し。逆方向性転換に伴う産卵コストの評価を試みた。その結果、2魚種いずれにおいても、逆戻りメスの繁殖能力が有意に低下するることを示す定量データを初めて確認することに成功した。産卵能力は時間経過とともに回復する傾向がみとめられたため、能力回復までの時間的コストを分析するため現在も実験を継続実施している。 研究計画のもう1つの柱である「一夫多妻社会をもつ性転換魚の繁殖戦術の野外調査」については、調査予定地であった鹿児島県口永良部島の火山の噴火災害により、本年度の調査実施を見送った。そのため、口永良部島における過去の調査データの見直し・再分析を本研究課題の視点から進め、スズメダイ科の一夫多妻魚フタスジリュウキュウスズメダイの性転換の発現機構における新たなパターン仮説を見出すことができた。これは野外調査実施の際の注目点になるものと考えている。平成28年度より、同島での研究実施をスタートできるよう現在調整を進めている。 そこで野外調査は、沖縄県本部町瀬底島の琉球大学熱帯生物圏研究センター前のサンゴ礁で、スズメダイ科の一夫多妻魚ルリスズメダイを対象とした調査研究をスタートさせた。同種には両性生殖腺を持つ個体が存在し、性転換する可能性があると考えている。本年度は社会形態についてのデータを獲得し、社会変化を追う人口学的な調査を来年度も継続させる予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究実績の概要に記載したように調査実施予定地であった鹿児島県口永良部島の火山噴火災害による野外調査実施の見送りがあったが、沖縄県瀬底島でのルリスズメダイの繁殖戦術に関する研究をスタートさせた。また、もう1つの研究計画の柱である「逆方向性転換のコスト評価」に関する研究では、ハゼ科2種において非常に意義深いデータ獲得に成功した。現在も飼育実験は継続中であるが、魚類の性転換の実態に関する未解明領域に踏み込んだものと自負している。これらの経過報告については学会発表を実施し、関連研究者との議論を進めた。
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Strategy for Future Research Activity |
ハゼ科2種を対象とした逆方向性転換のコスト評価に関する実験を、当初の計画に沿った形で継続させる。順調な進行ゆえ、スズメダイ科など新たな魚種も実験対象に加え、現象の普遍性に関する議論を補強するデータを獲得したい。 一方、一夫多妻社会を持つ性転換魚類の繁殖戦術の野外観察調査は、沖縄での調査を継続させながら、並行して口永良部島における調査活動を平成28年度よりスタートさせる計画である。調査対象のフタスジリュウキュウスズメダイ、アブラヤッコ類とゴンベ類は、これまでに十分な予備生態調査を実施しているため、野外調査スタートの1年の遅れは十分に取り戻せるものと考えている。
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