2015 Fiscal Year Research-status Report
サクラマスの産卵微細環境で起こる精子競争とその適応意義の解明
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15K07229
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
牧口 祐也 日本大学, 生物資源科学部, 助教 (00584153)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 精子競争 / 代替繁殖戦略 / サケ科魚類 / 生活史二型 |
Outline of Annual Research Achievements |
サクラマス(Oncorhynchus masou)の生活史二型(降海型オスと残留型オス)における繁殖形質の変異は性選択に大きな影響を受けており、代替繁殖戦略の進化を理解する上で重要である。本研究では、複合的な微細環境(産卵微細環境)中でどのような精子競争が起きているのか、またどのような因子がどのように両表現型オスの繁殖成功に関わっているかを明らかにすることを目的とした。サクラマスは浮上後降海する大型オス(降海型オス)と一生を河川で生活する小型オス(残留型オス)の2つの生活史が存在する。本研究では、それらの精子運動能(速度、運動率、運動時間)を降海型・残留型で比較するとともにメスの体腔液の影響を調べた。精子速度・運動率・運動時間は降海型に比べて残留型で大きくなった。しかし、メスの体腔液の存在下では各生活史間で違いはみられなかった。これらの結果はメスの体腔液による選択圧が各生活史オスで異なることを示している。一般に、雄間競争で不利な残留型は降海型の放精の瞬間に後ろから放精し卵を受精させようとする(スニーキング行動)。つまり、残留型の精子は河川水に放出されたのちに高濃度のメスの体腔液が含まれた溶媒を通過し卵に到着しなくてはならない。一方、メスの近くで放精することのできる降海型は放精直後から高濃度のメスの体腔液が含まれた溶媒中を泳ぐことになる。これらのことから、残留型の精子は降海型に比べてメスの体腔液による選択圧が高いことが示唆された。これらの結果は、メスの体腔液がオスの繁殖成功に大きく影響を与える可能性を含んでいる。本研究内容は、国際学術雑誌へ投稿中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度でサクラマスの代替繁殖戦略の違いによる精子運動性能およびメスの体腔液中における運動性能の違いを明らかにすることができた。
精子運動性能の測定系を確立したことにより来年度以降さらなる解析が期待できる。当初の予定通り、順調に進展している。また、行動学的研究についても実験実施場所について計画を進めている。さらに、生化学・遺伝子に関する実験についても準備を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
来年度は1)人工産卵池における産卵行動実験、2)複数個体群における精子運動性能の比較の2つの実験を計画している。
1)人工的に産卵床となる砂利をひいた産卵池に、降海型サクラマスオス、残留型ヤマメ、およびメスを入れ産卵行動を行わせる。産卵行動終了後、使用した実験魚のGSI・二次性徴について計測を行う。産卵された稚魚が浮上する4-5月ごろに、サンプリングを行いDNA父性判定によりオスの繁殖成功が繁殖戦略の違いによってどのように変化するのか比較する。
2)複数個体群(北海道3地点、本州1地点)についてサクラマスのサンプリングを行い、降海型サクラマスオスおよび残留型ヤマメの精子運動性能(速度・運動率・運動時間)について倒立型顕微鏡を使って計測する。さらに、精子精漿を採取し生化学的分析を行う予定である。詳細については思案中である。また、精子を固定し電子顕微鏡にて形態を詳細に観察し、繁殖戦略の違いによる違いについて検討をする。
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Causes of Carryover |
当初計画していた旅費について他の財源により本助成より支出する必要がなくなったため繰越を行った。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
申請書にて旅費として計上していた経費は、遺伝子実験および行動実験で使用する実験機器または消耗品費に充てる計画である。
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