2016 Fiscal Year Research-status Report
サクラマスの産卵微細環境で起こる精子競争とその適応意義の解明
Project/Area Number |
15K07229
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
牧口 祐也 日本大学, 生物資源科学部, 助教 (00584153)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | サクラマス / 代替繁殖戦略 / 乱婚 / サケ科魚類 |
Outline of Annual Research Achievements |
サクラマスは2つの生活史を持つサケ科魚類である。サケ科魚類の繁殖行動は多くの場合一雌多雄で行われる。これを乱婚と呼ぶ。しかしサケ科魚類は間接的利益を通した淘汰圧が雌にかかると考えられるので、質の良い雄1尾から確実に精子をもらった方が良いはずである。ここでサクラマスの雌は乱婚をすることによって何か利益を得ている可能性がある。そこで本研究では、「サクラマスが乱婚をすることにより生まれてくる受精卵の発眼率が上昇する」という仮説を立て、卵を受精させる雄の数または生活史タイプ(サクラマスまたはヤマメ)を変えて受精卵の発眼率との関連性を調べた。2016年9月~11月、北海道標津町標津サーモン科学館にて実験を行った。供試魚には標津川で捕獲された成熟した個体を使用した(ヤマメ雄27尾、サクラマス雄27尾・雌9尾)。まず供試魚の頭部を即殺する。その後体表面の水気をふき取り、精子は腹部から肛門にかけて手で軽く圧迫して採取し、体腔液は肛門から卵は腹部を切って掻き出した。採取した卵を均等な数になるようにタッパーに分け、精子の組み合わせパターンに沿って精子を滴下した。その後10%体腔液をタッパーに注いで精子を活性化させて受精させた。1時間静置した後に受精卵を飼育棚に収容した。受精から24日後に死卵を除去し、最終的に71日後に孵化した稚魚、発眼卵および死卵の数をカウントした。産卵行動に参加する雄の数が多くなるほど発眼率は有意に高くなった(Tukeyの多重比較、P<0.05)。また、サクラマスのみの場合やヤマメのみの場合よりもサクラマスとヤマメ両方存在する方が発眼率は有意に高くなった(Tukeyの多重比較、P<0.05)。本研究の結果より、乱婚はサクラマスの雌にとって発眼率が上がるという点でメリットがあるということが解明された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初、サクラマス降海型雄と残留型雄の精子運動性能比較のみに焦点を当てていたが、よりその個体の繁殖成功を反映するであろう卵の発眼率を2つの生活史で比較することができた。このことから、受精成功においてサクラマスの残留型雄は降海型雄に比べて強い淘汰圧に晒されていることが考察された。今後は、DNAマイクロサテライト父性判定を用い繁殖(受精)成功度の比較を行う。
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Strategy for Future Research Activity |
DNAマイクロサテライト父性判定を用い繁殖(受精)成功度の比較を行う予定である。具体的には繁殖行動実験、または操作実験により得られた受精卵から受精成功オスを明らかにすることで、降海型オスと残留型オスの放精量(精子量)、精子の質、および繁殖行動、さらにメスの体腔液および競争オスの精漿といった産卵微細環境を構成する溶媒と繁殖成功の関係を明らかにする。
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Causes of Carryover |
フィールドである北海道までの旅費が他の助成金におけるプロジェクトと時期が重なったため当初の予定よりも低く抑えられた。さらに、消耗品の購入が予定していたよりも少なかったために予算が低く抑えられた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度使用額を平成29年度に行うDNAマイクロサテライト父性判定実験において消耗品が増大することが予想されるため購入にあてる。さらに、フィールド研究を例年通り実施するための旅費に使用する。
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Research Products
(8 results)