2016 Fiscal Year Research-status Report
ゼニゴケの植食者に対する誘導防衛メカニズムに関する基盤的研究
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15K07230
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Research Institution | Meijo University |
Principal Investigator |
上船 雅義 名城大学, 農学部, 准教授 (90559775)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
松井 健二 山口大学, 創成科学研究科, 教授 (90199729)
小澤 理香 京都大学, 生態学研究センター, 研究員 (90597725)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 植物防衛 / ゼニゴケ / ナミハダニ / ハスモンヨトウ / 忌避物質 / 繁殖抑制 / 発育抑制 |
Outline of Annual Research Achievements |
これまでの風洞を用いた研究では、ゼニゴケの匂いに対するナミハダニの忌避能は機械傷を受けないと認められなかったが、今年度の研究において別系統のゼニゴケでは健全であってもナミハダニに対する忌避能を有することを明らかにした。また、ナミハダニの忌避が確認されたC8化合物の忌避能は濃度によって変化することも明らかにした。さらに、ゼニゴケのこれら系統が放出するC8化合物の量を調べた結果、放出量は両系統とも機械傷により増加したが、系統間に違いが認められず、系統間の忌避能の違いは他の揮発性物質であると考えられた。 ゼニゴケの匂いの有する防衛能をさらに明らかにするため、ナミハダニ雌成虫の繁殖とハスモンヨトウ幼虫の発育に与える影響を調べた結果、ナミハダニの産卵数はゼニゴケの匂いに影響を受けなかったが、生存率は健全ゼニゴケの匂いにより有意に減少した。また、ナミハダニの食害面積は、機械傷ゼニゴケの匂いにより減少する傾向が見られた。ハスモンヨトウ幼虫の発育は機械傷ゼニゴケの匂いで悪くなったが、餌の摂食量が増加した。以上のように、ゼニゴケの匂いは忌避能だけでなく植食者の生存や発育を悪くする能力を有することを明らかにした。 ゼニゴケが餌として植食者の発育に及ぼす影響を明らかにするため、ハスモンヨトウ幼虫を用いて実験を行ったところ、ハスモンヨトウは老齢まで発育可能であるが蛹になれず死亡した。また、ナミハダニは発育が悪くなるものの成虫まで発育できるものが存在した。これらのことから、栄養的な問題ではなく何らかの防衛物質が植食者の発育を悪くしていることが予想された。防衛に関与する植物ホルモンであるジャスモン酸とサリチル酸の測定が可能であることをゼニゴケで確認し、健全ゼニゴケ内にサリチル酸は存在するが、ジャスモン酸はわずかしか検出できず存在しない可能性が認められた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成27年度成果でゼニゴケの系統によって防衛能力が異なることの成果を受けて、des6変異株を使用して防衛能を評価するのではなく、系統の違いからゼニゴケの防衛能を明らかにしていく方針とした。ナミハダニに対する忌避能に関する研究では、ゼニゴケの忌避能が系統によって異なることを明らかにし、計画している以上の成果を上げることができた。ナミハダニ繁殖にゼニゴケが与える影響は、産卵数抑制効果がゼニゴケの匂いにないことから、匂いを放出しないdes6変異株を用いた実験を実施する必要がなくなり、予定していた成果をある程度出せたと考えている。ゼニゴケの匂いが持つナミハダニとハスモンヨトウの摂食阻害効果も計画していた通りの成果をあげることが出来ている。ゼニゴケがナミハダニの発育に及ぼす影響も計画していた結果が得られており、ハスモンヨトウの発育においては共同研究者から発育できないと報告を受けていたが、予想と外れて老齢まで発育可能で面白い成果がでた。ゼニゴケの防衛誘導反応の解析は遅れ気味であるが、ゼニゴケを用いてジャスモン酸とサリチル酸の測定が可能であることを確認できている。
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Strategy for Future Research Activity |
申請時に計画をしていなかったが、今年度と同様にゼニゴケの系統によって防衛能が異なることに着目して研究を進める。ハスモンヨトウ幼虫は予想以上にゼニゴケを餌として利用できたことから、ゼニゴケ由来の不揮発性物質が植食者に与える影響を調べる際に、マルカンチンなどの二次代謝物質を有さない変異株などを用いて研究を進めていくことを検討する。また、ゼニゴケの誘導防衛反応の解析としてジャスモン酸とサリチル酸の測定を行うなか、傷害処理ではなく、ハスモンヨトウ食害の処理を実施する。平成29年度ではC8化合物以外の揮発性物質にも着目し、ゼニゴケが放出する揮発性物質の系統間の比較から植食者防衛に関与する候補物質を選定し、研究を進めていく。
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Causes of Carryover |
ゼニゴケ内のジャスモン酸の測定に必要な標品を購入するための予算を年度末まで残していた。年度末までに業者が標品の作製を完了させられないため購入出来なかったことと、実験に別に必要な資材等が発生したために、残しておいた予算を使用した。これらのために、次年度使用額が生じてしまった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度使用額は、ゼニゴケ内のジャスモン酸を測定するための標品を平成29年度予算と合わせて購入時に使用する。
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Research Products
(1 results)