2017 Fiscal Year Research-status Report
パンコムギにおけるアレルギーの原因となる種子貯蔵タンパク質特異的抑制因子の同定
Project/Area Number |
15K07261
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Research Institution | Yokohama City University |
Principal Investigator |
川浦 香奈子 横浜市立大学, 木原生物学研究所, 准教授 (60381935)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | コムギ / ゲノム / 種子貯蔵タンパク質 / アレルギー / グリアジン |
Outline of Annual Research Achievements |
コムギの種子貯蔵タンパク質は多重遺伝子にコードされるため、類似した分子種が多く複雑である。これらのタンパク質は、小麦粉の加工適性を決定する一方、一部は小麦アレルギーやセリアック病の原因となる。パンコムギChinese Spring (CS) の染色体異数体系統を用いたグリアジンタンパク質のプロファイルを比較したところ、6D染色体にコードされセリアック病のエピトープをもつグリアジンを選択的に抑制する効果が2A染色体にあることが示唆された。この因子を同定し、抑制されるグリアジンの特性を調査することで、ゲノム間の遺伝子調節機構を明らかにすることを目的とした。まず、2A染色体を正常の2倍もつテトラソミック系統の完熟種子の胚乳において6D染色体に由来するグリアジンの蓄積が抑制されていたことから、各遺伝子座を区別できるプライマーを用いた定量RT-PCRにより種子登熟期の遺伝子発現量を調べた。その結果、6D染色体に由来するグリアジンは特異的に遺伝子発現が抑制されていることが示された。次に、2A染色体テトラソミック系統と同様にグリアジンの蓄積が抑制されていた2D染色体置換系統とCSを交配し、F2分離集団を作製した。これらの系統の登熟期の種子を用いて次世代シークエンスによるRNA-Seqを行った。CSと多型の見られるSSRマーカーおよびRNA-Seqから作出したSNPマーカーを用い、分離集団でグリアジン抑制の表現型との連鎖解析を試みたが、連鎖のあるマーカーは得られなかった。さらにゲノムDNAを用いて解析したところ、2A染色体テトラソミック系統および2D染色体置換系統において、どちらも同様に6D染色体に構造変異がおきており、グリアジン遺伝子座が欠失していることが明らかになった。これらのことから、ゲノム間の発現調節機構は見られなかったが、これらの系統が低アレルゲン小麦へ応用できることが示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究では、特定のグリアジンを選択的に抑制する2A染色体の因子を同定し、抑制されるグリアジンの特性を調査することで、ゲノム間の遺伝子調節機構を明らかにすることを目的とした。しかし、ゲノムDNAを用いて解析したところ、グリアジンが抑制されていた2A染色体テトラソミック系統および2D染色体置換系統において、どちらも同様に6D染色体に構造変異がおきており、グリアジン遺伝子座が欠失していることが明らかになった。これらのことから、当初予定していた解析は進められたが、ゲノム間の発現調節機構は見られないため、これらの系統を低アレルゲン小麦へ応用するため、アレルギーのエピトープを認識する抗体を複数作出した。これらを用いて、6D染色体のグリアジン遺伝子座が欠失したときに他のタンパク質への影響を調査し、ゲノム間調節機構を明らかにすることにしているが、解析が遅れている。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究より、6D染色体の部分欠失によりセリアック病の原因となるグリアジンの遺伝子座の欠失した系統が明らかになった。多コピーの遺伝子にコードされるグリアジンにおいて、特定のゲノムの遺伝子が欠失したときに他のゲノムの遺伝子が補完することが考えられている。これらの欠失系統や正常系統を用い、各遺伝子座特異的なプライマーを用いた定量PCR等で種子登熟期における遺伝子発現量を詳細に調べ、ゲノム間で遺伝子発現調節があるのか、またはどのタイミングであるのかを明らかにする。同時に、アレルギーのエピトープを認識するペプチドを用いた抗体を複数作製したため、タンパク質蓄積量に対しても遺伝子発現後の調節があるのかを明らかにする。これらのことから、種子貯蔵タンパク質の改変による低アレルゲン小麦作出への応用を図る。
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Causes of Carryover |
これまでの実験結果より、種子貯蔵タンパク質遺伝子抑制因子の同定が困難となった。そこで、結果を精査し、委託で抗体作製をすることとしたが結果の解析に時間がかかった。抗体作製には時間がかかるため、納品や支払いは次年度となることとなった。また、その抗体を用いた実験の試薬として使用する。
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