2016 Fiscal Year Research-status Report
生態環境の予期せぬ変動がもたらす熱帯果樹の着果不良とそのメカニズムの解剖学的解明
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15K07290
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
樋口 浩和 京都大学, 農学研究科, 准教授 (50303871)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
香西 直子 国立研究開発法人国際農林水産業研究センター, 熱帯・島嶼研究拠点, 主任研究員 (90588584)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 温度 / 湿度 / 受粉 / 受精 / 結実 / 熱帯果樹 |
Outline of Annual Research Achievements |
ドリアンの受精は、夜温が15度を下回ると成功しない(eg: Trop. Agr. Develop. 58(2):58-65.)が、品種間の温度応答の違いはわからなかった。タイのドリアン産地で開葯前後の夜間温度を制御し、花粉発芽率に及ぼす温度の影響を調査した。また、夜温を制御した環境下で、ドリアンの受精がどのような温度応答を見せるのかを試験した。今後そのサンプルを検鏡する予定である。 チェリモヤでは、開葯前2日間の気温が花粉の発芽率と開葯直前の花粉デンプンの異化に影響するとされてきたが、もっと短い時間でも気温が花粉発芽率やデンプンの消長に影響する可能性があった。そこで、チェリモヤ花粉粒内のデンプン蓄積に関する解剖学的観察をおこない、通説に反して、気温は開葯前の花粉粒デンプンの蓄積に影響せず、デンプンの消長は発芽率に直接関係しないことを明らかにする一方、開葯直前の夜温が発芽率に大きく影響することを指摘した。この研究を投稿論文にとりまとめ、公表した(Trop. Agr. Develop. 60(3):155 - 161,2016)。 レイシの花粉発芽率は温度の影響を強くうけることが示唆されるが、育成地の異なる品種ではその応答性も異なることが予想された。そこで、中国南部・フロリダ・タイの品種の雄性花をさまざまな温湿度条件下で開葯させ、得られた花粉の発芽試験をおこなった。その結果、レイシの開葯に好適な温度/湿度条件は、品種によらず20℃50% RH であり、‘Chakrapat’と‘Bengal’の花粉発芽率が条件によらず高いことがわかった(熱帯農業研究9[2]:55-56.)。 そのほか、夏季のチェリモヤの人工受粉にアテモヤ花粉を使っても結実不良は改善しないことを明らかにする研究をおこない、熱帯農業学会で発表した(熱帯農業研究10[1]:31-32.)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
計画した実験を実施するにあたって温度制御装置は期待通りの性能を発揮しているが、野外で実験を行うためには今一段の高性能があれば研究はさらに加速すると思われる。温度制御の効率化とさらなる精度向上を目指して、ペルチェ素子を応用した小型で高精度な温度制御装置の改良を行った。出力向上の結果、商業電源の供給のない屋外でも小さい電力で測定を行うことが容易になると思われる。これを使って、2017年度の実験を行いたい。 本研究は、樹種横断的に実施する計画であったが、現在のところ、チェリモヤ、レイシ、ドリアンについて、研究実績を積み上げることができてきた。このうち、レイシとドリアンについては、さらに実験を続ける予定であり、さらなる成果が期待される。一方、パッションフルーツについては、これまでのところ公表できるデータは得られていない。そのため、これまでに得られたノウハウを活かし、パッションフルーツについても温度応答の実験を勧める必要があると考えている。パッションフルーツの利点は、柔軟な蔓性である。このことから、制御箱に花を収納しての実験が容易となる。昨年な材料が不十分であったが、今年はその点を補っている。 ドリアンについても、おおむね順調に進んでいるが、さらに研究を進めるため、現地での温度処理実験を開花期に行う必要がある。タイにあるサラッカの産地トラート県で行った季節ごとの花器発達と温度条件の違いについて、観察結果をとりまとめて公表する段階である。
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Strategy for Future Research Activity |
今後も、実験と平行して温度制御装置は改良版の作成を続ける必要はある。十分な反復数を確保し、信頼性の高いデータが得られるようにするためである。性能は十分に上がってきているが、やはり処理数が欲しいのと、故障や劣化があるので、工作の必要はあると考える。安価であるから、こうした進め方にとくに大きな困難はない。
データが蓄積してきたレイシについては論文執筆を加速させる。タイではサラッカの実験を行っているので、この結果を公表すべく、論文を執筆する。
パッションフルーツとドリアンについては、実験環境が整ってきているので、順調に進むことが予想される。パッションは国内で春から秋、ドリアンは東南アジアで冬が開花期である。タイに、12月か1月頃に渡航して実験を進めるべく、入念な準備を行っていく。現地チャンタブリ園芸試験場との良好な関係を維持しつつ、密に連絡を取り、現地にも技術移転できるような進め方でデータを得る方策である。全力で取り組みたい。
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