2017 Fiscal Year Research-status Report
生態環境の予期せぬ変動がもたらす熱帯果樹の着果不良とそのメカニズムの解剖学的解明
Project/Area Number |
15K07290
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
樋口 浩和 京都大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (50303871)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
香西 直子 鹿児島大学, 農水産獣医学域農学系, 講師 (90588584)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | 温度 / 湿度 / 受粉 / 受精 / 結実 / 熱帯果樹 |
Outline of Annual Research Achievements |
タイで行っているドリアンの結実と温度応答の品種間差異を明らかにする研究は、異常な低温と多雨により開花数が大幅に減少したため、十分に実施できなかった。 レイシの開葯時の温湿度が花粉発芽に及ぼす影響を調査した論文を公表し、15-30度の範囲では高温でよく開葯すること、その範囲では高湿度(60-70%)で発芽率がよいことを指摘した(Trop. Agr. Develop. 61:62-69)。また、ドリアン品種チャニーはモントン品種に比べて低温での着果性に優れ、15度でも結実することを報告した(Acta Horticulturae 1186: 99-102)。保蔵中のサラッカ花粉の温度と湿度の影響、および雌蕊内での花粉管伸長に及ぼす温度の影響を報告した(熱帯農業研究10[2]:81-82;11[1]:21-22)。 パッションフルーツの花器に局所的な温度処理を行い、花器単独では36度で高温障害のために受け入れ能力をなくすが、圃場では31度以上で着花しにくくなることを明らかにした。圃場での高温による着花不良は、花器自身の高温阻害だけではないことを指摘した(熱帯農業研究10[2]:7-8; 11[1]:23-24)。 チェリモヤでは、花卉周辺の温湿度を制御して、雌蕊内の花粉管伸長に及ぼす飽差の影響を調査した。その結果、飽差が15 hPa以上となる条件での受粉は好ましくなく、開花直後であってもまだ暑く乾燥した時間帯に受粉するのは望ましくないことを指摘した。また、飽差が15 hPa以上のときには胚珠が萎縮する形態異常がしばしば観察され、飽差15 hPaが28°Cのとき60%以下の相対湿度、24°Cのときでは50%以下の相対湿度に相当することから、夕暮れ以降の人工受粉が望ましいことを裏付けた(熱帯農業研究11[1]:25-26)。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
タイで行っているドリアンの温度応答の研究は天候不順によって十分な結果が得られていないが、天候要因による軽微な計画変更はある程度あらかじめ予想されることであり、その間にサラッカの検鏡作業を進めて成果を公表するに至った。さらに、レイシ、ドリアン、サラッカで関連する多くの報告を行うことができた。ドリアンやサラッカの成果は、現地での栽培農家の関心も高く、生産現場で役立つ有用な情報であることから、現地の農業に大きく貢献することができたと考えている。 パッションフルーツでは、需要が高くなる夏に国産の果実は収穫量が減少する問題が生じており、生産者を悩ませてきた。この問題を解決すべく研究に取り組んできたが、花卉のみを対象とした高温処理を実現させたことで、夏の高温による花卉への直接的な障害は大きな要因ではなく、生育環境が高温となることで物質生産や水ストレスといった複合的な樹体の消耗が大きな原因であることが示唆された。これは、パッションの高温障害の解明における重要な一歩である。 チェリモヤの受粉には、高温が好ましくないことや乾燥が好ましくないことはこれまでから指摘されてきたが、報告によってその基準はばらつき、明快な栽培指針がたてられずにいた。今回おこなった研究では、温湿度を精度よく制御することによって、また飽差を基準にもちいたことによって、飽差15hPa以上で大きく低下するという明快な基準を指摘することができた。この点は、計画以上の成果であったと思われる。
|
Strategy for Future Research Activity |
継続して注力していくのは装置の開発である。この研究の根幹に関わる部分であり、精度よく局所温度を制御する装置なくして温度応答実験は成り立たないと考えている。その方向性は、量産と耐久性の向上になってきている。継続して進めたい。 チェリモヤの温度応答実験は、温湿度の組合せで行ってきており、その制御はとくに困難である。したがって、これまでは生体ではなく切り花で行ってきた。圃場で湿度まで制御するのは困難だったからである。しかし、この度の飽差と着花の実験によって、湿度制御の技術をほぼ完成したので、これを圃場で行いたい。圃場では、日射による温度上昇に耐える必要があり、温度制御装置の格段の性能向上が求められる。これを、耐久力と物量投入の両面で乗り切る構えである。 パッション、ライチなど、重要なデータが得られてきているので、科研最終年であることから、これらについてはできるだけ速やかに成果を公表してゆきたい。
|