2015 Fiscal Year Research-status Report
伊豆諸島のガクアジサイ遺伝資源からの強光耐性系統の選抜並びに耐性機構の解明
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15K07297
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Research Institution | The University of Shiga Prefecture |
Principal Investigator |
上町 達也 滋賀県立大学, 環境科学部, 准教授 (40243076)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | アジサイ / 強光耐性 / 遺伝資源 / 光阻害 / クロロフィル蛍光 / 病害耐性 |
Outline of Annual Research Achievements |
実験1.霧状褐変化障害の発生・耐性機構の解明:クロロフィル蛍光測定装置を用いて,光阻害の指標である光化学系Ⅱ活性(Fv/Fm)と熱放散の指標であるNPQを測定し,霧状褐変化障害の感受性と光阻害及び熱放散との関係を調査した.無遮光下での栽培試験において,霧状褐変化障害に対して耐性が高いガクアジサイ系統では光阻害の程度が小さいのに対し,耐性が低いヤマアジサイ系統では強い光阻害を受けていることが示唆された.一方,耐性系統と感受性系統をそれぞれ1系統供試し,障害がほとんど発生しない約90%の遮光条件で栽培して解析した結果,いずれも光阻害をほとんど受けていないことが示唆された.しかし90%遮光下において,ガクアジサイの耐性系統は熱放散量が小さいのに対し,ヤマアジサイの感受性系統は熱放散量が大きかったことから,比較的光量が低い条件においてもヤマアジサイの感受性系統は光阻害を回避するために積極的に熱放散を行っていることが示唆された. 実験2.斑点状障害の発生・耐性機構の解明:いくつかの品種・系統から斑点状障害の発生している葉を採取し,障害発生部位を光学顕微鏡および走査型電子顕微鏡で解析した結果,菌糸や形態の異なる複数種の分生子が観察された.これらをPDA培地で培養し,分離株についてITS配列を解析した結果,7種類の糸状菌が同定された. 実験3.強光耐性育種素材の発掘・育成:野生系統を用いた圃場栽培試験の結果,伊豆諸島の青ヶ島、八丈島、新島や小笠原諸島の北硫黄島の自生系統において霧状障害に対する強い耐性が認められた.一方,伊豆大島の自生系統の1つである昭和大島は斑点状障害に対して強い耐性が認められた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度に予定していた実験について,以下のように概ね計画通り遂行できたため. 実験1.霧状褐変化障害の発生・耐性機構の解明:本年度のメインの実験であるクロロフィル蛍光測定装置を用いた光化学系Ⅱ活性(Fv/Fm)と熱放散(NPQ)の解析が予定通り行うことができ,霧状褐変化障害の感受性と光阻害の程度との間に一定の傾向が見られること,ガクアジサイとヤマアジサイで光強度と熱放散量の関係が異なること,などの知見が得られた. 実験2.斑点状障害の発生・耐性機構の解明:障害部位における病原菌の観察とDNA配列を基にした病原菌の同定を予計画通りに行うことができ,7種類の糸状菌が特定された.これにより,平成28年度の研究課題である,強光条件で誘導される斑点状障害を引き起こす病原菌の絞り込みを行うことが可能となった. 実験3.強光耐性育種素材の発掘・育成:伊豆諸島(伊豆大島,青ヶ島,八丈島)の自生株の中に,霧状障害と斑点状障害に対し耐性を示す系統がそれぞれ認められた.しかしまだ調査を行っていない伊豆諸島の島々(三宅島や新島など)にさらに強い耐性をもつ系統が見つかる可能性があるため,引き続き遺伝資源の探索が必要である.
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策 実験1.霧状褐変化障害の発生・耐性機構の解明:感受性系統と耐性系統の葉の構造や熱放散量の比較を行い,耐性のメカニズムを解析する.また強光障害の機構を明らかにするために,障害の発生に対する受光量や紫外線の影響を調査する. 実験2.斑点状障害の発生・耐性機構の解明:平成27年度に同定された7種類の糸状菌の中から,強光条件で誘導される斑点状障害の原因である病原菌を絞り込む.遮光・無遮光の違いと殺菌剤処理の有無により,斑点状障害の発生を制御し,PCR法による生体内の病原菌の濃度と障害の発生程度との相関を調べることにより,斑点状障害の原因である病原菌を特定する. 実験3.強光耐性育種素材の発掘・育成:伊豆諸島の三宅島と新島で調査を行い,生育環境をもとに強光耐性を示す可能性の高い個体を選抜する.
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Causes of Carryover |
研究に必要な物品を購入するにはあまりにも残額がわずか(1698円)であったため.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
①伊豆半島の自生個体の調査:旅費,レンタカー代,現地での調査・測定や試料採取・整理・標本作成などの作業のための雇用,②霧状褐変障害および斑点状障害の発生・耐性機構の解明のための栽培試験:クロロフィル蛍光測定装置の周辺機器,光量子束密度・温度などの環境要素の計測・記録機器,培養土・ポット・紫外線ランプ・遮光ネットなどの栽培資材,③斑点状障害を誘導する病原体の特定:PCRや電気泳動などの試薬・実験器具,病原菌培養のための試薬・実験器具,DNA配列解析の試薬と実験器具,DNA配列の解析やプライマー合成などの受託,④全般:学会発表のための旅費
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