2016 Fiscal Year Research-status Report
病害誘導抵抗性を活性化する根圏生息性卵菌の評価と生物防除への応用
Project/Area Number |
15K07308
|
Research Institution | Yamagata University |
Principal Investigator |
長谷 修 山形大学, 農学部, 准教授 (10261497)
|
Project Period (FY) |
2015-10-21 – 2018-03-31
|
Keywords | 誘導抵抗性 / 生物防除 / 有用微生物 |
Outline of Annual Research Achievements |
根圏生息性卵菌(PO)によって活性化される植物の誘導抵抗性について、その防御関連遺伝子の発現量を指標にして定量的に評価することを目的とした。28年度は前年度を踏まえ以下の(1)と(2)の課題を継続し、さらに(3)の課題に着手した。 (1)POによる誘導抵抗性のトマト品種間差に関する解析:防御関連遺伝子の発現量のレベルで品種を大、中、小の3グループに類別し、ガラス室栽培条件で発病抑制と発現量の関係を解析した。その結果、発病抑制効果と防御遺伝子の発現量のレベルは安定しなかった。トマトの育苗時期の温度や湿度、日照などの環境条件の違いが安定性に影響したと推察され、環境条件との関連性の解析が必要と考えられた。 (2)花き(ストック)の菌類病に対するPOの生物防除効果の検討:土壌伝染性の萎凋病に対するPOの施用効果について、特にPOの施用量を増量することによる効果を検証した。また、根圏土壌中のPOの菌量の定量方法を検討した。さらに、PO応答性の遺伝子クローニングを継続して試みた。その結果、発病試験の結果、POをストックに施用すると栽培時期によって萎凋病が抑制されることが確認できた。但し、施用量を10倍増量しても効果は上がらなかった。根圏土壌中のPOを検出する方法は、先行研究の選択培地を用いる方法では検出できなかったが、ある種の抗生物質を加えることで、雑菌がなくなり、POを検出できた。よって、POの検出と定量ができる見通しになった。PO応答性の遺伝子クローニングの結果、前年度より多くクローニングすることに成功し、そのうち、PO処理により非常に高い発現誘導する遺伝子の候補が得られた。 (3) 新規PO株の探索:一般農家の枝豆畑の連作障害が発生した圃場から、生育のよい枝豆の根圏を採取して新規菌株の分離培養を試みた。いくつかの菌株について形態学的にPOと推定された菌株を複数分離し保存した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
(1)POによる誘導抵抗性のトマト品種間差に関する解析については、安定した結果にならなかったが、栽培環境に影響することが考えられたため、栽培環境との関連性を解析する方策を次に計画する。当初の進捗の見通しには達しないが、栽培環境との相関性を解析する方策にすすむ方針が明確になったので、大きな遅れにはならないと考えている。 (2)花き(ストック)の各種菌類病に対するPOの生物防除効果の検討については、萎凋病に対して、栽培時期などの環境要因に影響を受けるものの抑制効果があると考えられた。環境要因との関連性を明らかにしていく上で根圏土壌からPOの検出と定量ができる見通しが立ったことは大な進捗と考える。さらに、誘導抵抗性を定量化するための指標となる遺伝子の候補が得られたことから、その詳細な解析に進める見通しが立ったことで、概ね順調に進んでいると自己評価した。 (3) 新規PO株の探索については、候補となる菌株を分離培養した。これらは当該研究機関の近隣の地から分離したものであり、栽培環境の影響を比較解析できる菌株になると期待している。進捗状況は概ね順調と考える。 以上のように、全体としては、研究の見通しが立ち、概ね順調に進んでいると自己評価した。
|
Strategy for Future Research Activity |
これまで実施してきた上記の(1)から(3)の課題のうち、(2)の課題を推進し、誘導抵抗性を定量的に評価できる研究基盤を築きたい。 (2)の具体的な推進方策は次の通りである。28年度に行った予備試験結果では、根圏土壌中の病原菌の量はPOの処理量にかかわらず同じ程度を推移した。すなわち、根圏土壌ではPOの病原菌との拮抗作用は認められなかった。言い換えると拮抗作用以外の例えば、誘導抵抗性が発病抑制と関わる可能性が考えられた。そこで、29年度は、土壌中のPOと萎凋病菌および発病の抑制の相関について詳細に解析することを計画する。また、ストックでも認められたPO応答性の遺伝子について、情報伝達系に関与するジャスモン酸やエチレンおよびサリチル酸に対する応答性を解析し、ストックにおける誘導抵抗性の情報伝達系の解明につなげる分子基盤を構築することを目標とする。 また、PO菌の培養に阻害的な細菌性の雑菌は、根圏土壌中から分離培養している。この微生物は根圏でPOとどのような拮抗関係があるかを解析すれば、定着性の向上につながることが考えられた。よってPOとこの微生物との相互関係に関する解析も行う計画を立てる。
|
Causes of Carryover |
次年度使用額は833,603円が生じた。この理由は、次年度の研究に協力してもらう大学院生の研究開始に合わせるためである。また、いくつかの試験は、環境の影響との関連性を解析することが重要であるとわかったため、植物の栽培時期に合わせて29年度に予算を繰越すことにした。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
29年度の総助成額は1,433,603円となり、その使用計画は次の通りである。物品費は遺伝子の発現解析として、クローニング、リアルタイム定量PCR解析および培養に関係する消耗品833,603円を計上し、遺伝子発現および菌量の定量解析を図る。また、研究資料収集と成果発表の旅費として、300,000円、実験補助の人件費として200,000円、シーケンス解析などの受託解析に100,000円を計上する。
|
-
[Presentation] Beneficial microbes for crop protection2017
Author(s)
Hase S, Kato T, Yanaka S and Kobayashi T
Organizer
International Symposium on "Differentiating the impact of climate and socio economical changes on natural ecosystems in Mongolia: prevention vs. adaptation"
Place of Presentation
Mongolian University of Life Sciences (Ulaanbaatar, Mongolia)
Year and Date
2017-03-06 – 2017-03-08