2015 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
15K07334
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
笠井 光治 東京大学, 農学生命科学研究科, 准教授 (80517938)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 栄養輸送体 / 極性 / ホウ酸トランスポーター / BOR1 / PCR2 |
Outline of Annual Research Achievements |
植物の根で発現する栄養輸送体は、土壌中の栄養素の吸収、地上部への輸送に重要な役割を果たす。栄養輸送体の中には極性を持って局在するものが知られており、極性は栄養素の輸送の方向を決める重要なファクターであると考えられる。本研究は、極性を持たない栄養輸送体に極性を付与する技術の構築を目指す。具体的には、内向き(導管側)の極性を持つシロイヌナズナのホウ酸トランスポーターBOR1の極性局在シグナル配列を、ホウ素輸送体以外の栄養輸送体に導入 し、その機能評価する。また、極性局在シグナル配列と相互作用する 因子を探索することで、BOR1の極性局在のメカニズムの詳細な理解を目指す。 これまでにBOR1の内向き極性が地上部への効率的なB輸送に必要であること、BOR1のC末端細胞内領域の配列をBOR1のパラログで内向き極性を示さないBOR4に導入するとBOR1同様の内向き極性を示すようになる事を明らかにしていた。本年度は、効率的な物質輸送への効果が示された極性局在の能力を他の輸送体に付与する技術の構築を目的とし、実際にBOR1のC末端細胞内領域の配列をシグナル配列として利用しBOR1以外の膜輸送体に内向きの極性を付与出来るのかどうかを検証した。 BOR以外の排出型栄養輸送体である重金属トランスポーターであるPCR2遺伝子のC末端側にBOR1のC末端細胞内領域の配列およびGFP配列を融合し、BOR1プロモーター制御下で発現する形質転換シロイヌナズナを作成した。形質転換体のGFP蛍光を観察したところBOR1のC末端細胞内領域の配列を融合したPCR2は内向き極性を示すことが明らかになった。この結果は、BOR1のC末端細胞内領域の配列がBORタンパク質だけでなく他の膜輸送体の極性も制御できる能力を有しており、細胞膜タンパク質の極性局在を制御する技術の開発に利用できることを示している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究の第一の課題である、ホウ酸トランスポーターBOR1の極性局在シグナル配列を、ホウ素輸送体以外の栄養輸送体に導入できるかどうかを明らかにするために、BOR以外の排出型栄養輸送体である重金属トランスポーターであるHMA2およびPCR2遺伝子のC末端側にBOR1のC末端細胞内領域の配列およびGFP配列を融合し、BOR1プロモーター制御下で発現する形質転換シロイヌナズナを作成した。T1世代の植物のGFP蛍光を観察したところ、HMA2、PCR2共に内向き極性を示す細胞が観察された。より詳細を解析するためにT2, T3世代の植物を作成し、GFP蛍光を観察したところ、PCR2では内向き極性が観察出来たが、HMA2では有意な内向き極性は観察されなかった。PCR2に付与した内向き極性が金属の吸収に及ぼす影響を評価するために内向き極性を示すPCR2を発現する植物体のカドミウム感受性を調べたが、現在までに野生型との感受性の違いは見いだせていない。しかしながら、本研究において、極性を変化させた輸送体を導入した植物における輸送の流れの変化を観察することはきわめて重要であるため、別のアプローチとしてレーザーアブレーションICP-MS法用いた詳細な元素分布測定系の構築を試みている。以上の結果から、本研究の第一関門であり最重要課題であるBOR1のC末端細胞内領域の配列がBORタンパク質だけでなく他の膜輸送体の極性も制御できる能力を有していることを明らかにすることが出来た。細胞膜タンパク質の極性局在を制御する技術の構築につながると期待される。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度はBOR1のC末端細胞内領域の配列を利用して重金属トランスポーターPCR2に極性を付与出来ることが明らかになった。今後は付与した極性がPCR2によって輸送される重金属の分布が植物体内でどのように変化しているのかを明らかにしていく。現在までに内向き極性を示すPCR2を発現する植物体のカドミウム感受性の野生型との違いは見いだせていないため、生育条件の検討を行うことで引き続き調査していく。また、レーザーアブレーションICP-MS法用いた詳細な元素分布測定系の構築し、植物根における元素分布の違いの検出を試みる。HMA2に関しては、T2世代の植物体で内向きの極性を見いだすことが出来なかったが、T1世代の植物では部分的に内向き極性と思われるGFP蛍光が検出できたので、生育環境や遺伝子発現量により極性局在を示す可能性が残されている。したがって、観察数を増やすあるいは生育環境を変化させて極性局在の有無を観察していく。 本研究の第一関門であるBOR1のC末端細胞内領域の配列がBORタンパク質以外の膜輸送体の極性も制御できる能力を有していることが明らかなったため、次のステップとして、BOR1のC末端細胞内領域の配列がどのように内向き極性を決めているのかを明らかにする研究を進めていく。具体的には、BOR1のC末端細胞内領域と相互作用する因子をGFP抗体を用いた免疫沈降法、酵母ツーハイブリッド法を用いて同定する。 さらに、作物であるイネにおいても同様に形質転換体を作成し、内向き極性を付与出来るかどうかを明らかにしていく。
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Causes of Carryover |
初年度後半ににBOR1のC末端領域に結合し、極性付与に関与する分子のスクリーニングを計画していたが、実際にBOR1のC末端領域が他の膜輸送体の極性形成に利用できることを証明できなければ研究目的を遂行する上で意味の無い実験になる恐れがあったため、BOR1のC末端領域が他の膜輸送体の極性を付与する能力があることを決定する研究を優先した。そのため、BOR1のC末端領域に結合し、極性付与に関与する分子のスクリーニングのために計上していた予算を繰り越した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
BOR1の極性形成に関与するタンパク質を見いだすために、形質転換体の根からmicrosome画分を調製し、GFP抗体を用いて免疫沈降を行う。BOR1-GFPと共沈してくるタンパク質をLC-MSで解析し、BOR1-GFPと相互作用するタンパク質の候補とする。この際に、S652-655A-GFPと共沈してくるタンパク質と比較することで、極性形成および分解に関与する候補タンパク質の絞り込みを試みる。この手法では、疑似陽性のものが多数採れてきたり、あるいは免疫沈降の条件により相互作用タンパク質が外れてしまうことが推定されるので、初年度に得られた重金属輸送体PCR2についでも同様の実験を行い、比較検討する。また、BOR1変異により、タンパク質相互作用量が変化をするケースも考えられるため、iTraq法により結合量が変化しているタンパク質のスクリーニングも行う。
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