2016 Fiscal Year Research-status Report
原核生物Hsp90(HtpG)と新規ClpBのシャペロン作用機構の解析
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15K07349
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Research Institution | Saitama University |
Principal Investigator |
仲本 準 埼玉大学, 理工学研究科, 准教授 (30192678)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 分子シャペロン / Hsp90 / HtpG / ClpB / シアノバクテリア / タンパク質の凝集 / シャペロンネットワーク |
Outline of Annual Research Achievements |
我々が明らかにした新規シャペロン系HtpG-DnaK2/DnaJ2/GrpEの制御機構を解明することが研究目的の一つである。一般的に、DnaJ(Hsp40)はDnaK(Hsp70)のコシャペロンとしてのみ働くと考えられているが、我々は、DnaJ2は(DnaK2と相互作用する)Jドメインを含まないC末側の領域でHtpGと相互作用すること、この相互作用によってHtpGのシャペロン(凝集阻止)活性が阻害されること、ADPと比べてATP存在下では、DnaJ2によるこの阻害がさらに大きくなることを明らかにした。これらの結果は、HtpGのATPaseシャペロンサイクルにDnaJが関与して、HtpGの機能調節を行うことを示唆するものである。 我々は、ハナショウガに含まれる小分子化合物ゼルンボンが、Hsp90のシステイン側鎖を修飾してそのATPase活性を増大させることを明らかにした。シアノバクテリアや真核細胞をゼルンボンで処理すると、Hsp90のタンパク質基質の細胞蓄積量が減少した。HtpG(Hsp90)とDnaK(Hsp70)が協調的に働くためには、それらのATPase活性が適切に調節されなければならないことが示唆された。 本研究で用いるシアノバクテリア(ゲノム)には、大腸菌等の従属栄養細菌とは異なりClpBをコードする2種類の遺伝子(clpB1とclpB2)が存在する。我々は、ClpB2が(従来研究されてきた大腸菌ClpBや酵母Hsp104とは異なり)変性タンパク質と複合体を形成して、その凝集を抑制することや、この複合体にDnaK2/DnaJ2/GrpE/ATPを加えると、変性タンパク質は元の機能的構造に折りたたむことを明らかにした。これらの結果から、シアノバクテリアClpBには変性タンパク質を折りたたみ(あるいは再生)可能な状態に維持する機能が存在することが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年(2017年)になって、米国NIHのWicknerらは大腸菌HtpGがDnaKのDnaJ相互作用部位に結合することを明らかにした。これは、HtpGのDnaKへの結合によってDnaJがDnaKから解離することを示唆するものである。DnaKに結合したHtpGは、DnaKから基質を受け取りシャペロン作用するものと考えられる。我々は、DnaJ2がHtpGと結合してHtpGからの基質の解離を促すことを示唆する結果を得た。これらの結果から、DnaJ2の新規コシャペロン機能に関する次の仮説をたてた。即ち、DnaJ2はDnaK2に結合してDnaK2の基質結合を促進するが、HtpGがDnaK2に結合するとDnaJ2はDnaK2から解離する。基質はDnaK2からHtpGに移りシャペロン作用を受けるが、DnaJ2はHtpGに結合してHtpGからの基質の解離を促す。 Hsp90は、そのシャペロン作用に必須の、弱いATPase活性を有する。抗がん剤等の開発を目的として、Hsp90のATPase活性を阻害する化合物の探索や合成が行われてきた。今年度の結果は、ATPase活性とシャペロン機能が、一般的に考えられているように正の相関を示すのではなく、Hsp90のATPase活性を活性化するとシャペロン機能が阻害されることを示唆するものである。我々は、阻害ではなく活性化によってHsp90機能を阻害するという、創薬研究における新規なアプローチを提唱する。 一般的に、ClpBの機能はタンパク質の凝集を阻止することではなく、凝集塊の可溶化であると考えられているが、我々の結果は、ClpB2には凝集阻止活性があり、ClpB2と結合して凝集を抑制された基質は折りたたみ可能な状態に維持され、DnaKシャペロン系によって再生されうることを示すものである。これは、今までに報告されていないClpBの新規機能である。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の研究実績の一つとして、DnaJ2の新規コシャペロン機能に関する上記の作業仮説をたてた。この仮説に基づき、二つの主要シャペロン(HtpGとDnaK2)間の協調的シャペロン作用の仲介者としてのDnaJ2の役割を確立するために、DnaJ2との相互作用による、HtpGの基質に対する親和性の変化を定量的に解析することは重要である。今までは、HtpGと基質との親和性の変化(低下)を、凝集阻止活性(の減少)を測定することで推定してきたが、今後は、高温などの変性処理で凝集沈殿しない基質タンパク質(例えば、グルコース-6-リン酸脱水素酵素)を用いて、基質とHtpGの相互作用を、プルダウン法や表面プラズモン共鳴(SPR)解析装置等を利用して測定し、親和性を定量的に求める。 我々は、Hsp90のATPase活性を増大させる天然小分子化合物ゴニオタラミンとゼルンボンを見つけた。これらの活性化剤が存在すると、HtpGとDnaK2の協調的シャペロン作用が阻害されることが示唆された。これらの結果に基づき、(DnaK2のATPase活性に比べて)HtpGのATPase活性を過剰に活性化すると協調的シャペロン活性が阻害されるのではないかと考えた。今年度は、HtpGとDnaK2の(ATPaseの活性比ではなく)モル比が協調的シャペロン作用に及ぼす影響を調べる。 我々は、シアノバクテリアにおいて必須の機能を担うClpB2が、これまで報告されてきた大腸菌ClpBとは(生化学的性質において)非常に異なることを明らかにしてきた。このClpB2の必須性を解明するうえで、その基質の探索・同定を行うことは非常に重要である。そのために、細胞抽出液総タンパク質にClpB2抗体あるいはヒスタグ融合ClpB2を加えて免疫沈降あるいはプルダウン実験を行い、共沈するタンパク質をプロテオーム解析等により同定する。
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Causes of Carryover |
平成28年度に計画していたドイツにおける国際会議への出席・成果発表に加えて、年度半ばになって、ベトナムで開催される国際会議(The 1st International Conference on Applied Microbiology)における招待講演の依頼を受けた。この会議でも本研究費の成果を発表すべきであると考えたために、外国旅費の支出が増えた。この出費のために、設備備品として購入予定であった分光光度計(1,100,000円)を購入することが不可能になった。そのために、次年度使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
経年劣化している機器や器具等の修理・補填や、国内及び国外の会議で、本研究の成果を発表するために用いる予定である。
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