2016 Fiscal Year Research-status Report
プロテアーゼ巨大分子複合体とウイルス様膜小胞による細菌の新規細胞機能の確立と応用
Project/Area Number |
15K07366
|
Research Institution | Kyoto Prefectural University |
Principal Investigator |
渡部 邦彦 京都府立大学, 生命環境科学研究科, 教授 (90184001)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
川崎 一則 国立研究開発法人産業技術総合研究所, その他部局等, 研究員 (40356837)
増村 威宏 京都府立大学, 生命環境科学研究科, 講師 (50254321)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
Keywords | 膜小胞 / 温度感受性 / プロテアーゼ |
Outline of Annual Research Achievements |
トリ羽毛分解を行う好熱性細菌Meiothermus ruber H328 株が細胞表層から放出するウイルスに類似した「膜小胞」(membrane vesicle)について研究を引き続き実施した。大腸菌でdegP遺伝子の破壊が膜小胞の産生増加をもたらす情報を基に、本菌株に対し同遺伝子の破壊株を相同組換えにより構築した。なおdegP遺伝子の同定は、全ゲノム解析の情報を用いて挙がってきた3つの候補遺伝子から、大腸菌のdegP遺伝子との相同性、シグナル配列、局在性予測などをもとに1つ(mrh_0331)に絞り込んだ。このdegP破壊株は、H328株野生株が65°Cまでの温度で生育に異常がないのに対し、55°Cまで正常な挙動を示す一方、60°C以上では生育が抑えられることが判った。生育におけるこの温度感受性の挙動は、大腸菌の場合と類似しており、生育に伴う膜小胞の産生変化を、昨年度実施した蛍光色素DiI (1,1'-dioctadecyl-3,3,3',3'-tetramethylindocarbocyanine perchlorate) を用いた膜小胞の定量法を用いて実施した。膜小胞画分の簡便な調製法を培養液に対し、超遠心分離を含む操作により確立した。その結果、55°C時には見られなかった蛍光強度の増加が、60°C 培養時だけ見られた。さらに、蛍光が増加した55°C及び60°C培養時のサンプルを、透過型電子顕微鏡解析(TEM)に供し、60°Cのみ膜小胞の同程度の増大が観察された。このことは、degP遺伝子欠損が、熱誘導により膜小胞の産生を促進したことが示唆され、世界で初めて膜小胞の増加を、TEMで証明することができた。今後、膜小胞表面提示を目指して、S-layerタンパク質にターゲットを絞って研究を推進する計画である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
トリ羽毛分解を行う好熱性細菌Meiothermus ruber H328 株が細胞表層から放出する膜小胞について引き続き研究を行った。大腸菌において、シャペロン機能を持つdegP遺伝子の破壊が膜小胞の産生増加をもたらす情報を基に、本菌株でも同遺伝子の破壊株を相同組換えにより構築した。なおdegP遺伝子の同定は、全ゲノム解析の情報を用いて挙がってきた3つの候補遺伝子から、大腸菌のdegP遺伝子との相同性、シグナル配列、局在性予測などをもとに1つ(mrh_0331)に絞り込んだ。このdegP破壊株は、H328株野生株が65°Cまでの温度で生育に異常がないのに対し、55°Cまで正常な挙動を示す一方、60°C以上では生育が抑えられることが判った。生育におけるこの温度感受性の挙動は、大腸菌の場合と類似しており、生育に伴う膜小胞の産生変化を、昨年度実施した蛍光色素DiI (1,1'-dioctadecyl-3,3,3',3'-tetramethylindocarbocyanine perchlorate) を用いた膜小胞の定量法を用いて実施した。膜小胞画分の簡便な調製法を、2, 4, 6日間の培養液に対し、超遠心分離(110,000 × g, 2 h)を含む操作により実施した。その結果、60°C で培養時4, 6日において、3-4倍の蛍光強度の増加が見られた。なお55°C培養時にはこの蛍光増加は見られなかった。さらに、蛍光が増加した55°C及び60°C培養時のサンプルを、透過型電子顕微鏡解析(TEM)に供し、negative染色で観察したところ、膜小胞の同程度の増大が60°Cで観察された。このことは、degP遺伝子欠損が、熱誘導により膜小胞の産生を促進したことが示唆された。詳細なメカニズムについては不明であるが、世界で初めて膜小胞の増加を、TEMで証明することができた成果である。
|
Strategy for Future Research Activity |
好熱性細菌Meiothermus ruber H328 株によるトリ羽毛分解能の増強は、これまでターゲットしてきたプロテアーゼにかかる2タンパク質遺伝子だけではなく、羽毛ケラチンに多数含まれるジスルフィド結合に対して作用する酵素protein disulfide oxidaseの遺伝子破壊を検討している。加えて、degP遺伝子破壊株を用いて、膜小胞が熱ストレスにより誘導されることが判明したことから、今後膜小胞とストレスとdegP遺伝子の関連を検討し、膜小胞の量的コントロールに着手したいと考えている。また膜小胞産生において、質的コントロールとして、膜小胞の表面提示についても検討を加えていきたいと考えている。この際、細胞表層に最も多く存在するタンパク質であることを確認しているS-layerタンパク質(mrh_2961)を足場タンパク質に用い、膜小胞の表面に置き、遺伝子的にこのS-layerタンパク質と融合させることで、表面提示の可能性を探りたいと考えている。
|
Causes of Carryover |
バクテリア由来の膜小胞の電子顕微鏡解析のために、当初は所内の共用施設での依頼分析を実施しその利用課金を見込んでいたが、平成28年度中の実験内容については研究員本人による作業が可能となり所定のデータを得たことの理由による。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成29年度使用額として、あらためて共用施設の依頼分析の支出に使用することによって本研究課題の推進を図る計画である。
|