2016 Fiscal Year Research-status Report
枯草菌の緊縮転写制御ネットワークの先導的基盤研究とその活用
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15K07374
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Research Institution | Fukuyama University |
Principal Investigator |
藤田 泰太郎 福山大学, 生命工学部, 教授 (40115506)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 緊縮制御 / 枯草菌 / 転写制御 / 代謝制御 / 胞子形成 / kinB / 転写開始 / 転写ネットワーク |
Outline of Annual Research Achievements |
枯草菌の胞子形成は細胞分化のモデルと考えられ活発に研究が行われてきたが、胞子形成に関わる代謝制御機作は未だに未解決である。最近、本研究代表者は、胞子形成のトリガー遺伝子kinBは、緊縮状態に曝されると転写開始点のアデニンからの転写が活性化される、すなわち正の緊縮転写制御をうけることを見出した。そこで、kinB遺伝子の転写制御に関わる因子をkinBのプロモーターとlacZとの融合系を用いて探索したところ、バイオフィルム形成の制御因子であるSinRにより転写抑制されていることを明らかにした。lacZ融合による欠失・塩基置換解析と精製SinRを用いたEMSA解析により、kinBの転写抑制に関わるSinRの結合シス配列を特定した。それは、kinBのプロモーター上流域 (-64から-36)に存在するタンデムリピート(各々のリーピートの下流域にSinRのコンセンサスを含む)であった。さらに、lacZ融合による塩基置換解析とEMSA解析により、その下流域(-34から-8)にkinBの正の緊縮転写制御に関わると思われる同様な構成のタンデムリピートを見出した。また、kinBのSinRによる転写抑制は、SinRのアンタゴニストであるSinIの誘導により解除されるが、SinRに依存したkinBの正の緊縮転写制御へSinIの関与は認められなかった。これらの結果より、枯草菌の胞子形成は対数増殖後期におけるSinRのSinIによる阻害によるkinBの転写抑制の解除と緊縮状況下でのSinRの関与するkinBの正の緊縮転写制御の作動が協調して効率良い胞子形成を引き起こすと推察された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度の研究計画は、枯草菌の緊縮転写制御ネットワークの全体像を掴むことと、バイオフィルム形成の主たる制御因子であるSinRが関与する転写抑制と正の緊縮制御の下にある、胞子形成開始を担うkinBの転写制御機作の解明である。前者は技術的な問題で顕著な進展はなかったが,後者はkinBのプロモーターのlacZへの融合系を用いたプロモータ領域の塩基置換・欠失解析と精製SinRを用いたEMSA解析によるSinRの結合部位の特定に成功した。すなわち、kinBの転写抑制に関わるSinR結合シス配列はkinBの転写開始点の上流域 (-64から-36)に存在するタンデムリピート(各々のリーピートの下流域にSinRのコンセンサスを含む)であり、その下流域(-34から-8)にkinBの正の緊縮転写制御に関わると思われる同様な構成のタンデムリピートを見出したことである。この研究成果は胞子形成とバイオフィルム形成さらに緊縮制御とを結節させる転写制御系の存在を示し、その枯草菌の生理学上の意義は極めて大きい。以上の研究結果を纏め,平成29年2月にJournal of Bacteriologyに投稿したが、修正(revision)を要求され、現在その対応に当たっている。 また、SinRはkinBの正の緊縮転写制御のみならず, ilv-leu, pycAやkinAの正の緊縮転写制御にも関わるが、ptsGやpdhの負の緊縮転写制御には関わらないことを見出した。このことは、枯草菌の正の緊縮転写制御にSinRが普遍的に関わるということを示唆し、このSinRの関わる正の緊縮制御系の分子レベルでの解明は、枯草菌の転写制御研究に極めて大きなインパクトを与える。
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Strategy for Future Research Activity |
枯草菌胞子形成のトリガーをコードするkinBは、バイオフィルム形成のマスター制御因子であるSinRによって転写抑制され、またkinBの正の緊縮転写制御の作動もまたSinRに依存する。この転写抑制と正の緊縮転写制御に関わるSinR結合シス配列を推定した。これらの知見をJournal of Bacteriologyに投稿したが、SinR結合シス配列の特定が不十分とのことで追加実験を含む論文の修正を求められた。そのため、変異プローブを用いたEMSA解析の追加実験を行い本論文の受理を期す。 SinRの欠損はkinBのみならずilv-leu,pycAやkinAの正の緊縮転写制御をも作動不能にする。しかし、その欠損はptsGやpdhなどの負の制御の作動には影響しない。枯草菌の緊縮状態はGMP合成酵素阻害剤のデコイニン添加によって引き起こすことができる。SinR欠損変異株でも野生株と同じように、デコイニンの添加によりGTP濃度の減少とそのフィードバック制御によるATP濃度の増加が起こることを検証する。変異株でもGTPとATP濃度の変動が正常に起こるならば、ATP濃度に依存した正の緊縮転写制御が精製SinRを生体外転写系に加えることによって生体外で再構築できるか否か検証する。このようにSinRに依存した正の緊縮制御系を生体外で再構築できれば、フィルミクテス門の細菌の緊縮転写制御機構の解明に大きなインパクトを与えることになる。 また、上記研究に加えて、これまで積み残しの枯草菌の転写開始点のプリン種に依存した緊縮転写制御ネットワークの解明を、次世代シーケンサーを用いたトランスクリプトーム解析とオリゴキャッピング法による体系的な緊縮遺伝子の転写開始点の同定により押し進める。
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Causes of Carryover |
平成28年度に10,596円の未使用額が生じ、これを平成29年度使用額とした。この未使用額が生じた理由は、年度末の物品費の見積りが予期した以上に安価であったためである。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成28年度の未使用額10,596円は、平成29年度の物品の購入に当てる。
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Remarks |
平成29年2月に、「kinBのSinRによる転写制御」に関する論文をJournal of Bacteriologyに投稿したが追加実験を含む修正を要求され、現在この要求に対処している。
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Research Products
(2 results)