2015 Fiscal Year Research-status Report
神経機能改善用医薬資源としての棘皮動物由来糖脂質の研究
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15K07409
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Research Institution | Gifu University |
Principal Investigator |
石田 秀治 岐阜大学, 応用生物科学部, 教授 (20203002)
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Project Period (FY) |
2015-10-21 – 2018-03-31
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Keywords | 糖脂質 / 神経突起進展作用 / 棘皮動物 / 化学合成 / 構造活性相関 |
Outline of Annual Research Achievements |
高齢化社会を迎えた我が国では、神経疾患が重要な社会問題となっている。近年、シアル酸を含むスフィンゴ糖脂質が神経突起伸展など、神経の分化制御に重要な役割を担っていることが明らかにされた。従来、脊椎動物のガングリオシドの生物機能が精力的に進められてきたが、近年、棘皮動物にも多くのガングリオシドが存在し、それらが培養大脳皮質細胞の生存維持作用、神経突起伸展作用を有することが明らかにされた。本研究では、これら棘皮動物由来ガングリオシドを化学的に再構築することにより、これらの活性物質的基盤を与えるとともに、広範な類縁体の合成と評価により、活性発現に必須な構造の抽出、それに基づいたより活性の強い物質の開発を進めることによって、棘皮動物由来ガングリオシドの医学・薬学的応用を図ることを目的とする。 申請者は従来の哺乳動物ガングリオシド合成法に新たな改良を加え、ユニークな構造を持つ棘皮動物由来ガングリオシドの化学的再構築に取り組み、その数種の全合成を達成している。 本研究では、まずこれら全合成した棘皮動物由来ガングリオシド類の神経突起伸展作用を評価することで、天然より単離した標品で得られた結果を明確に再現する。また、全合成が達成されていないより複雑な構造のガングリオシド類の全合成を行い、詳細な構造-活性相関を検討する。さらに、活性発現に重要な構造を抽出することにより、より高い活性が期待される分子を設計・合成し、神経機能改善薬としてのシーズを見出す。 27年度は、神経突起進展活性評価系の確立と、それを用いたヒトデ由来ガングリソシドの構造活性相関を行った。また、2種類の棘皮動物由来ガングリオ偲ん全合成に成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初予定して3項目を順調に達成できた。 1)棘皮動物由来ガングリオシドの機能評価:既に数種の棘皮動物由来ガングリオシドの化学合成を達成しており、当該年度では、それらの生物機能を評価した。活性は、ラット副腎髄質由来褐色細胞腫PC12に対する神経突起伸展作用を検討した。細胞を無血清培地で培養し、検体をNGFと共に添加し、96時間後の神経突起の伸長を測定した。さらに、その技術を用いてヒトデ由来ガングリオシドLLG-3の構造と神経突起進展活性の構造活性相関を行った。 2)コブヒトデ由来がんグリオシドPNG-2Aの全合成:前項の研究で、神経突起性活性発現への8-OMeシアル酸の構造の寄与が報告されている。本ガングリオシドはα―ラクトースを含むユニークな構造を有しており、申請者らのグループで開発したα―選択的ガラクトシル化法(DTBS法)を用いて、全合成を達成した。 3)イトマキヒトデ由来ガングリオシドGP-3の全合成:棘皮動物由来ガングリオシドのなかでも最も複雑な構造を有している本ガングリソドの全合成に取り組み、達成した。全9糖を非還元側8等と還元側担当に分け、8糖は、さらに4糖ずつに分割する合成計画をお立案した。また還元側担当は、予め脂質と結合させておき、合成の最終段階にグリコシルセラミドとして縮合させるカセットアプローチを用いることとした。各中間体の合成とそれらの縮合、さらに最終段階での包括的な脱保護を何れも高収率で達成し、目的とするイトマキヒトデ由来ガングリオシドGP-3の全合成に成功した。
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Strategy for Future Research Activity |
27年度に達成できなかったマナマコ由来、SJG-2の全合成を行う。 天然由来ガングリオシドを用いた研究で、糖鎖部分におけるシアル酸残基数の活性発現への効果が示されており、1分子中にシアル酸を3残基する当該分子は、生理活性の面から、非常に興味深い。また、構造的には、ガラクトースのO-3,4位という隣接した水酸基にシアル酸が結合しており、糖鎖合成化学上、最も難易度の高い分子である。本研究では、最初に導入したシアル酸の立体配座を変換することにより、2残基のシアル酸の導入が容易になるという、申請者らによって新たに見出された知見に基づいて、本ガングリオシドの全合成に挑戦する。
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