2015 Fiscal Year Research-status Report
ロイシンのタンパク質合成促進刺激に対する応答の違いを利用した筋肉タイプ別萎縮抑制
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15K07423
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Research Institution | Utsunomiya University |
Principal Investigator |
吉澤 史昭 宇都宮大学, 農学部, 教授 (10269243)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | ロイシン / 骨格筋 / 筋肉タイプ / タンパク質合成 / mTOR |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、高齢者のサルコペニアの予防・改善に、ロイシンの筋タンパク質代謝改善作用を効率的に活用することを最終目的にしている。本年度は、ロイシンのタンパク質合成促進刺激に対する遅筋と速筋の感受性の相違を明確にすることを目的とした。18時間絶食にしたラットに、蒸留水に懸濁したロイシン(135mg/100g体重)を強制胃内投与し、S6K1および4E-BP1のリン酸化状態の変化をタンパク質合成活性変化の指標として、筋線維組成の異なる5種類の下肢の筋肉(長趾伸筋、足底筋、前脛骨筋、腓腹筋、ヒラメ筋)のロイシンのタンパク質合成促進刺激に対する応答感度を比較した。その結果、ロイシン投与群では絶食(対照)群と比べて5種類全ての骨格筋において、S6K1および4E-BP1のリン酸化が有意に亢進していた。ロイシンによってS6K1および4E-BP1が最も高リン酸化された筋肉は、遅筋線維の割合の多いヒラメ筋であった。ヒラメ筋は絶食状態でも他の筋肉と比べてリン酸化されたS6K1および4E-BP1の割合が高かったことから、ロイシン経口投与によるS6K1および4E-BP1のリン酸化の増加の割合は、ヒラメ筋が他の筋肉と比べて有意に小さいという結果になった。一方、ロイシン経口投与によるリン酸化の増加の割合が大きかったのは、足底筋と前脛骨筋であった。 以上のことから、ロイシン投与刺激に対する応答は筋肉ごとに異なっており、遅筋線維の割合の多い筋肉よりも速筋線維の割合が多い筋肉の方が、ロイシン投与刺激に対する感受性が高いことが示唆された。このことは、加齢による影響を受けやすいとされる速筋の萎縮予防にロイシンが効果的であることを期待させる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画では、本年度は絶食ラットに投与量を変えてロイシンを経口投与し、S6K1および4E-BP1のリン酸化の用量反応曲線の変曲点から、筋肉タイプごとのロイシンの最小有効量を求めて、感受性の相違を評価する予定であったが、実施出来なかった。これは、S6K1および4E-BP1のリン酸化解析の精度を上げる検討や、短時間で5種類の骨格筋を摘出するための手術手技の獲得に予想以上に時間を要したことが一因である。しかし、ロイシンのタンパク質合成促進作用を調べる一連の試験で用いられている用量のロイシンを投与した試験を行い、その結果からロイシン投与刺激に対する筋肉タイプごとの感受性の相違を予想することが出来たので、当初の目的をおおむね達成出来たと考えている。また、当初の計画にはなかったが、培養細胞系などのin vitro系で用いられ始めた新たなタンパク質合成活性指標を用いたタンパク質合成速度の評価法を、実験動物を用いたin vivo系に改良した評価法を構築した。この手法は今後の研究を進める上で大きな武器となると考えられる。以上を総合的に考えて、現在のところ研究は順調に進んでいると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度実施予定であった絶食ラットに投与量を変えてロイシンを経口投与し、タンパク質合成活性の指標であるS6K1および4E-BP1のリン酸化の用量反応曲線の変曲点から、筋肉タイプごとのロイシンの最小有効量を求めて、感受性の相違を評価する実験を最初に行う。また、初年度に開始予定であった遅筋と速筋におけるロイシンの「細胞内への取り込み」「感知」の相違の明確化を目指した実験に早急に着手する。「細胞内への取り込み」については、ロイシンの細胞内への輸送に関わる大型中性アミノ酸輸送体(LAT1, LAT2)のmRNA量の絶食時の量とロイシン経口投与にともなう量の変化を調べ、遅筋と速筋の細胞内へのロイシン取り込み能の違いを評価する。「感知」については、ロイシンのセンサー分子と考えられているleucyl-tRNA synthetase(LRS)およびLRS mRNAを測定し、筋肉間で比較する。さらに、筋線維タイプの特性に関係する遅筋特異的遺伝子(Myl3, Myh7, Tnnt1, Tnni1, Tnnc1, Tpm3 等)、速筋特異的遺伝子(Myl1, Myh4, Myh1, Tnnt2, Tnni2, Tnnc2, Tpm1 等)に注目し、ロイシン刺激によるこれらのmRNA量の変化を筋肉ごとに調べて、遅筋と速筋におけるロイシン刺激の「ターゲット遺伝子」の相違を明確にする。
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Research Products
(1 results)