2016 Fiscal Year Research-status Report
抗菌ペプチド「ナイシン」とエタノールを併用した食品保存技術とその作用機構解析
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15K07460
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
川井 泰 日本大学, 生物資源科学部, 准教授 (00261496)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 抗菌ペプチド / エタノール / ナイシン / 大腸菌 |
Outline of Annual Research Achievements |
ナイシンはLactococcus lactisにより生産されるバクテリオシン(抗菌ペプチド)で、我が国では2009年から食品添加物として使用されている。また、グラム陽性菌に対して抗菌活性を示し、大腸菌等の陰性菌に効果はないものの、エタノールとの併用で相乗効果が認められている。本研究では、エタノール・ナイシン溶液を用いた大腸菌の感作(浸漬)試験から、有効死滅濃度について検証を行った。また、各濃度のエタノール中におけるナイシンの大腸菌菌体に対する付着性試験を行い、その付着量を検討すると共に、一度付着したナイシンに対する菌体からの回収の可能性についても検証を行った。 浸漬試験の結果、E.coli JM109においては35%エタノール・ナイシン溶液および38%エタノール溶液で即座に菌が死滅した。また、E.coli BL21においては35%エタノールで即座に菌が死滅し、30%エタノール・ナイシン溶液では感作後20分で完全に菌が死滅することが明らかとなった。本結果から、ナイシンとエタノールの相乗効果が再確認されたと供に、ナイシン未添加の場合には大腸菌菌体に対して40%以上のエタノール濃度が殺菌上は必要である可能性が示唆された。 JM109における付着性試験により、58%エタノールまでナイシンは付着したが、60%以上では付着が見られなかった。またBL21では、エタノール濃度の上昇に伴い緩やかに付着性が低下する傾向が得られた。JM109におけるナイシンの回収試験では、菌体に付着しない60%エタノールでも、4.3%と低い回収率であり、BL21では50%エタノールでも1.5%の低い値を示した。以上の結果から、ナイシンは感作後に瞬時に菌体へ付着し、一度菌体に付着すると遊離せずに抗菌作用を発揮すると考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2年間の研究で、エタノール・ナイシン溶液の特性と有効濃度を決定し、大腸菌に対する作用機構の解明が進展したことに加え、最終年度の応用試験に向けた食肉表面汚染菌の分離同定(当初の計画外試験)が進行中だが、ナイシンとエタノールによる相乗効果機構の解明-2(電子顕微鏡、プロテオーム解析、および菌体内物質のメタボローム解析)については完遂出来ていないことから、標記の進捗状況と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度となる平成29年度で、現行の供試菌(3株)に加えた他の菌種・菌株(食肉表面汚染菌)を用いて、引き続きナイシンとエタノールによる相乗効果機構の解明(電子顕微鏡、プロテオーム解析、および菌体内物質のメタボローム解析)を行うと共に、本エタノール・ナイシン溶液を用いた食品保存および殺菌への応用として、食肉製品、野菜を対象とした浸漬およびスプレー試験から、本溶液の有効性と実用化に向けた検討を行う。
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Causes of Carryover |
異なるアプローチからなる手法・実験(食肉への予備試験に対する食肉表面汚染菌の分離)による対象菌株の増加見込みから卓上型クリーンベンチ(1台)を購入した。一方で、予定していたプロテオーム解析と菌体内物質のメタボローム解析については予備検討段階で終了したことから、その差額が次年度使用額(285,456円)となった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
今年度(29年度、最終年度)は、当初の計画通りの実験(エタノール・ナイシン溶液を用いた食品保存および殺菌への応用)と昨年度中に完遂できなかった試験(電子顕微鏡、プロテオーム解析、および菌体内物質のメタボローム解析)を実施し、上記次年度使用額はメタボローム解析オプションの費用補填に使用する予定である。
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