2016 Fiscal Year Research-status Report
上層木の管理は植生の被食耐性を高めるか?資源分配理論からの検証
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15K07471
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
鈴木 牧 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 准教授 (40396817)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
松木 佐和子 岩手大学, 農学部, 講師 (40443981) [Withdrawn]
楠本 大 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 講師 (80540608)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | イズセンリョウ / サポニン / 恒常的防御 / 炭素節約的防御 / シカ不嗜好性植物 |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度,植生調査データに基づき決定しておいた対象樹種について,光合成,成長,防御の各特性に関する形質値の調査を実施した。上層木伐採あり・なし,防鹿柵設置あり・なしの各実験区において,実験区内に生育していた各対象樹種個体の,光合成への窒素投資量(SPAD値)と個体サイズ(植物高と株数)を現地で測定した。その後,各個体の葉を採取して葉面積比を測定し,防御物質量(総フェノール量、タンニン、サポニン)の定量を開始した。防御物質量の分析は未完了の樹種もあるが,全国的に重要なシカの不嗜好性植物であるイズセンリョウについては,昨年度中に優先的に分析を完了し,学会で下記の結果を発表した。 研究計画書では,イズセンリョウは耐陰性が高く炭素節約的な防御を行う植物群に属すると予想されていた。分析の結果,イズセンリョウの葉にはフェノール類の約10倍の量のサポニンが蓄積されており,サポニン含有量には実験区間で有意差がなかった。この結果は,イズセンリョウが生育地の日射量や被食の有無によらず,恒常的にサポニンを生成して,シカによる採食を回避している事を示唆する。サポニンは分解再生の容易なイソフラボン配糖体であり,生成にあたり炭素を大量に消費しない。これは,イズセンリョウが炭素節約的な防御機構を持つという事前の予想に一致する。一方,より一般的な防御物質であるフェノール類(炭素を多く消費し,分解再生が難しい)は,イズセンリョウでは含有率が低く,対シカ防御効果は低かったと考えられた。 イズセンリョウについてはアルカロイド系の防御物質が知られておらず,日射条件の悪い林床でシカの採食に耐えられる理由は不明であった。サポニンを持つとされるシカ不嗜好植物は他にもあり(オオバアサガラ等),サポニン防御は暗条件下での重要な食害回避機構となっている可能性がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度は丹沢山地で植生調査を実施したものの柵内外の稚幼樹層に共通樹種をあまり見いだせず,計画を変更して房総半島に話題を絞る事になった。房総では測定,分析とも所期の計画どおり順調に進行しているが,想定外の事態も生じた。伐採区の柵内で遷移がすすみ林床環境が暗条件化していた事,柵外個体における被食経験の有無を目視で完全に判別できなかった事である。光環境や被食経験は個体の防御反応に強く影響するので,サンプルの性質に影響したと思われるが,野外実験区でこれらの条件を完全に操作する事は不可能である。そこで,対象樹種を苗畑に移植し,光環境を操作した上で摘葉実験を実施し,野外実験の結果を補強することにした。本年度,まずイズセンリョウについてこの実験を行い,手法が確立すれば来年度以降,他の対象樹種についても順次実験を行う予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
イズセンリョウ以外の対象樹種についての化学分析を完了し,それらの種についても上述のイズセンリョウと同様に統計解析を実施する。ここまでの結果は9月のIUFRO(国際森林学会)で発表する。並行して8月に,昨年度マークしたサンプル個体のサイズを再測して,各個体の成長速度を計算する。成長速度のデータと化学分析の結果を統合して統計解析を行い,研究課題2および3を完了する。 イズセンリョウの摘葉実験については,4月中に山取り稚樹の植栽と被陰処理を完了した。根の活着を見計らって5月末に摘葉処理,8月末頃に刈り取りとサンプリングを実施予定である。その後,冬期にかけ化学物質の定量を行い,今年度中に結果を取りまとめる予定である。
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Causes of Carryover |
研究成果を H29 年度にドイツで開催される国際森林学会(IUFRO)で口頭発表する事になり,旅費が必要となった。一方,H28 年度は,外部委託の予定だった分析作業の補助を共同研究者の院生が自分で行ったり,岩手での研究打ち合わせの旅費が不要となったこと等により,年度予算を使用額が下回った。このため,差額を旅費に充てるべく次年度に繰り越した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
当初計画の外国旅費に 28年度の繰越し 8万円を追加計上する。また当初予算のうち,岩手での研究打ち合わせ旅費 6万円と,英文校閲代 8万円を,外国旅費に移動する。計22万円の外国旅費を IUFRO 大会での成果発表(口頭)に使用する。不足となった英文校閲代は他の予算で賄う。
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