2016 Fiscal Year Research-status Report
豪雪中山間地域に分布する再生ブナ林の生態的構造と林業的利用の可能性
Project/Area Number |
15K07474
|
Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
紙谷 智彦 新潟大学, 自然科学系, 教授 (40152855)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
村上 拓彦 新潟大学, 自然科学系, 准教授 (20332843)
箕口 秀夫 新潟大学, 自然科学系, 教授 (30291355)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
Keywords | ブナ林 / 薪炭林 / 用材林 / 資源評価 / 天然更新 / 樹洞 / 野生鳥獣 |
Outline of Annual Research Achievements |
薪炭林として利用されていたブナ林を用材林として活用するためには、森林状況に応じた持続的な伐採と再生方法を検討する必要があります。一方で、再生ブナ林は希少な野生鳥獣も生育する森でもあることから、森林生態系に配慮した利用方法の検討も必要です。本年度の研究は、調査対象を新潟県魚沼市と十日町市の旧薪炭ブナ林としました。本年度の結果は主に以下の3点です。(1)着葉期と落葉期にそれぞれの林分においてドローン で空中写真を撮影し、GIS上で解析可能なオルソ画像を作成するとともに、計 2.83 ha の毎木調査を行いました。その結果、2時期に撮影した空中写真をオーバーレイすることで、ブナ高木1本ごとに容易に樹冠面積が測定できました。この樹冠面積に対応する材積との間の関係から相対成長式が得られたことで、今後、林分スケールで資源量の推定を行うことができるようになりました。さらに、調査区付近で伐採・採材された27本のブナ立木から、丸太材積と挽板材積を推定する回帰式が作成できたことから、立木から挽板枚数の算出までの一貫した評価が可能となりました。(2)1~数本の林冠木が立ち枯れて林冠が疎開した林床では、2 年生から高さ 200 cm 程度のブナ稚樹が最大で 30 万本/ha 確認できました。伐採を択伐方式とした場合、林床に前生更新しているブナ稚樹の成長促進が期待できることから、今後、どのような構造のブナ林に誘導すべきかについての検討が可能になりました。(3)樹洞は野生鳥獣が生育するための重要な構造的特徴の一つです。調査地のブナ二次林では、多数の樹洞が確認されました。鳥類では、樹洞生産者である中型キツツキ類や、カラ類等の樹洞営巣性鳥類が広範囲に数多く生息していることが明らかとなりました。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
申請書段階での要素研究1~4の計画と28年度までの進捗状況は、以下のとおりです。 <要素研究1> 景観スケールでの再生ブナ林の分布を明らかにする研究:2015年4月に撮影した約1300haをカバーする衛星画像を解析し、開葉直後のブナ樹冠の画像が得られました。この画像と森林計画図を重ね、ブナ林の分布域が抽出できました。これにより、利活用可能な資源としてのブナ分布は概ね抽出できたと考えられます。<要素研究2> 再生ブナ林を用材林として管理するための研究:林分蓄積を調べるために、通称ドローンと呼ばれる小型無人航空機でブナ林の開葉期と落葉期に撮影した画像を重ねることによって、個別木の樹冠を識別することができました。恐らく世界初の試みと考えられます。ブナ立木の材積は、ドローンの画像から測定した樹冠面積から、立木材積を推定するモデル式を作成し、撮影エリアすべての立木材積を推定することができました。これにより用材林として管理するための森林基本情報が得られました。<要素研究3> 豊作年に更新した実生を稚樹バンクに誘導するための研究:持続的に用材林として活用していくためには、伐採跡地を速やかに再生させる必要があります。比較的低海抜に分布する旧薪炭ブナ林は、ササ類による被陰が極めて少なく、林床に十分な前生稚樹が生育していることから、択伐方式を前提とした場合には、択伐後の収穫跡地での成長が十分に期待できることが明らかになりました。<要素研究4> 再生ブナ林を利用する鳥獣や樹洞の空間分布を解明する研究:樹洞は森林生態系の生物多様性を考える上で重要な構造的特徴の一つです。樹洞が豊富に存在する小面積のブナ二次林がパッチ状に存在し、複雑な景観構造を示す十日町市での樹洞撮影カメラを用いた動画撮影と、毎木調査から野生鳥獣による樹洞利用の実態が明らかになってきました。 このように、いずれも順調に進展しています。
|
Strategy for Future Research Activity |
これまでの成果を踏まえ、以下の調査を完遂します。 <要素研究3> 豊作年に更新した実生を稚樹バンクに誘導するための研究:前生稚樹の成長に必要な択伐の程度や低木層処理の必要性などについて検討するために、前生稚樹の成長に影響を及ぼす閉鎖林冠と低木層による被陰の影響を明らかにします。そのために、閉鎖林冠下から前生更新している稚樹を選び、芽鱗の痕跡を使って非破壊により伸長成長量を調べます。<要素研究4> 再生ブナ林を利用する鳥獣や樹洞の空間分布を解明する研究:鳥類調査では、樹洞生産者である中型キツツキ類や、カラ類等の樹洞営巣性鳥類が広範囲に数多く生息していることが明らかとなってきました。今年度の研究では、鳥類とともに二次的に樹洞を利用する動物である小型・中型哺乳類に関して、多雪地ブナ二次林における生息場所選択を明らかにします。現地調査では、樹洞撮影カメラを用いた動画撮影を行い、映像とカメラ挿入時の出巣から樹洞利用を調べます。さらに、GIS を用いて景観スケールでの樹洞利用についても検証します。<要素研究の追加> 広域のブナ資源現況図の作成:衛星画像によってブナ分布域が明らかになった対象地において、ブナ開葉前にセスナ機で撮影された空中写真画像により、対象地全域のブナ樹冠を抽出します。昨年度、ドローンで撮影した画像により作成した樹冠面積から材積を推定する式を空中写真画像から識別したブナ樹冠に適用することによって、対象地全域で任意のブナ立木の材積が推定できるシステムの作成を試みます。これによって、広域のブナ資源現況図から択伐計画が可能となります。 <管理指針の作成> 3年間の結果を総合して、旧薪炭ブナ林を対象に、100 年程度の回帰年で毎年収穫することを目標として、択伐後に、ブナ稚樹の成長を促し、どのような構造に誘導すべきかについて、伐木・集材や用材として収穫木の制約も含めて検討します。
|
Causes of Carryover |
前生稚樹の成長に必要な択伐の程度や低木層処理の必要性などについて検討します。そのために、前生更新している稚樹を選び、現地で芽鱗の痕跡を識別しながら伸長成長量を測定します。小型・中型哺乳類に関して、多雪地ブナ二次林における生息場所選択を明らかにします。そのために、樹洞撮影カメラを用いた動画撮影を行い、映像とカメラ挿入時の出巣から樹洞利用を調べます。さらに、GIS を用いて景観スケールでの樹洞利用についても検証します。セスナ機で撮影された空中写真画像により、対象地全域のブナ樹冠を抽出し、現地調査により対応状況を検証します。そして、対象地全域で任意のブナ立木の材積が推定できるシステムの作成を試みます。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
前生更新している稚樹を選び、現地で芽鱗の痕跡を識別しながら伸長成長量を測定し、データを整理するために、物品費、旅費と謝金を使用します。樹洞撮影カメラを用いた動画撮影を行い、画像を解析するために、旅費と謝金を使用します。空中写真画像により、対象地全域のブナ樹冠を抽出し、現地での毎木調査により対応状況を検証するために、旅費と謝金を使用します。伐木・集材や用材として収穫木の制約をGIS上で調べ、管理指針を検討するために、ヒアリングとGISデータの入力のために、物品費、謝金と旅費を使用します。
|