2016 Fiscal Year Research-status Report
自動撮影カメラとラジコンヘリによるニホンジカの革新的な密度推定手法の開発
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15K07487
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
中島 啓裕 日本大学, 生物資源科学部, 助教 (80722420)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
高柳 敦 京都大学, 農学研究科, 講師 (70216795)
伊勢 武史 京都大学, フィールド科学教育研究センター, 准教授 (00518318)
鮫島 弘光 公益財団法人地球環境戦略研究機関, その他部局等, リサーチャー (80594192)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | ニホンジカ / 密度推定 / 自動撮影カメラ / ドローン |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では,自動撮影カメラおよびドローンを使用したニホンジカの密度推定手法の確立を目的としている.本年度は,とくに以下の2点について調査を行った.
1.自動撮影カメラに関しては,H27年度の研究から,オスジカの角には個体識別に十分な個体変異があること,自動撮影カメラによって撮影された動画からシカ角の3次元構造を十分な精度で復元できること,したがって自動撮影カメラ映像からニホンジカの個体識別が可能であることが示されていた.H28年度は,この技術を野外個体群に適用し,標識再捕獲法を用いて実際に個体数密度を推定するための調査を行った.具体的には,京都府南丹市京都大学芦生研究林および群馬県利根郡みなかみ町日本大学生物資源科学部水上演習林にそれぞれ30台の自動撮影カメラを設置し,ニホンジカの有角個体の撮影を行った.この結果,芦生演習林において21個体,水上演習林において9個体が撮影された.このデータに空間明示型標識再捕獲モデルを適用し,各個体の行動圏の中心と捕獲率と距離の関係、個体数密度の推定を開始した.
2.ドローンに関しては,京都大学芦生研究林および日本大学水上演習林において,自動撮影カメラを設置しているのと同じエリアにドローン(DJI Phantom 3)を繰り返し飛行させ,上空からニホンジカの個体数をカウントした.この結果,現時点ではシカのカウントに様々な制約があるものの,いくつかの点を改良すれば実用に耐える手法になることが分かった.とくに動物の発見率は,その日の天候(とくに霧の有無)と太陽光の入光角度に大きく影響された.これらの点は,調査日や飛行時間帯を慎重に選ぶことで解決されることも示された.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
自動撮影カメラを用いた手法の確立に関しては,当初の計画通りの成果が出ている.この手法において鍵となるのは,いかに高い精度で有角個体の識別が可能であるかということであるが,これまでの調査で,十分な精度で角のサイズが測定できること(推定精度±5%),野外個体の確実な個体識別(判別率ほぼ100%)が可能なことが分かっている.さらに個体数密度推定のためのデータも順調に取得することが出来ている. 調査対象とした芦生研究林と水上演習林では,地形や積雪量,ニホンジカの個体数密度など様々な環境要因が異なっているが,本手法は両調査地点で有効に機能しており,さまざまな場所で利用可能な手法になることが期待できる. ドローンを用いた密度推定手法の確立も,おおむね順調に推移している.これまでの調査から,高い精度で密度推定を行うための飛行ルートや飛行高度,飛行速度などの詳細な情報を集めることが出来ただけでなく,密度推定の妨げとなる要因も特定出来てきた.これまでの調査から,上空からの動物の発見確率は,当初の想定以上に地形や天候などの環境要因に左右されることが分かってきている.この点を解決するためには,綿密な調査計画を事前に練るだけではなく,利用するドローン機種や飛行方法の再検討が必要である.これらの点を解決できれば,実践的なドローン活用法を確立できる. 上記のように,当初の計画は着実に遂行されつつある一方,新たに取り組むべき課題も見つかった.これらのことから,「おおむね順調に進展している」と判断された.
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の最終目標である「自動撮影カメラおよびドローンを用いた実践的なニホンジカ密度推定プロトコルの確立」のために,さらなるフィールド調査と密度推定アルゴリズムの見直しが不可欠である. まず,フィールド調査に関しては,これまでの手法がさまざまな環境に適用可能かの検証がさらに必要である.調査を行ってきた芦生研究林および水上演習林はシカの個体数密度が比較的低く,自動撮影カメラによる個体識別の誤判別率も低く抑えられていたり,ドローンによる同一個体のダブルカウントのリスクが軽減されていたりする可能性がある.これらを検証するために,房総半島や丹沢などのシカが高密度に生息する新しい調査地にも本手法を適用し,現時点で確立できた調査手法に弱点がないかを見直す必要がある.これまでのフィールド調査は大きな事故もなく順調に行えており,これらの調査地でも効率的な調査が実施可能であると考えられる.ドローンに関しては,環境依存性を軽減するために,新たな機種の導入も検討する.具体的には赤外線カメラを搭載した機種を夜間に飛行させ,動物のカウントの精度を向上させることができないかを調べる.これらの調査と合わせて,当初の計画通り,密度推定のための統計的アルゴリズムの改良を行う.とくに動物の発見率が時空間的に大きく変動する場合のランダム効果を組み込んだモデルを開発する.これらを通じて,広い環境に適用可能な革新的なニホンジカの密度推定手法を確立し,論文出版や学会発表を通じて広く成果を喧伝する.
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Causes of Carryover |
調査の目的上,使用するカメラのスペックを統一する必要がある(センサー感度や画角,シャッタースピードが調査結果に大きな影響を与えるため)が,購入予定の自動撮影カメラが品切れ状態となり,予定台数を年度内に購入できなかったため次年度使用額が生じた.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
購入予定だったカメラと同一スペックの新商品が既に販売されているため,そちらを速やかに購入する.
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Research Products
(4 results)