2016 Fiscal Year Research-status Report
同位体イメージングによる炭素の樹木内移動の可視化と木部形成過程の解明
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15K07505
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
竹内 美由紀 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 特任助教 (20378912)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 細胞壁 / 木部形成 / 光合成 / 同位体イメージング / 二次イオン質量分析法 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、樹木が吸収した二酸化炭素由来の炭素を追跡し、樹体内での移動や木部細胞への取り込み過程を調べることにより、木部形成過程について明らかにすることを目的とする。そのために、炭素の安定同位体である13Cで標識した二酸化炭素(13CO2)を樹木に一時的に与えて光合成により取り込ませて13Cで標識した試料を作出し、安定同位体質量分析計(IR-MS)測定によるバルク分析と、二次イオン質量分析法(SIMS)を用いた標識13Cの細胞レベルでのマッピングを行って、標識13Cの移動や分配様式を評価する。 平成28年度は、13CO2濃度を大気組成に近い400ppmに制御したグロースチャンバー内で、ポプラ(Populus alba x P. grandidentata)のシュートに13CO2を投与してパルスラベリングを行い、標識13Cの取り込みについて分析を行った。明期の前半あるいは後半に13CO2を2時間投与し、投与後の生育時間を変えて試料を採取した。試料の一部はグルタルアルデヒドで固定後、樹脂包埋して薄切片を作製し、SIMSでの同位体イメージングにより13C分布を観察した。また葉、師部、木部についてIR-MS測定による13C量の分析を行い、樹体内における標識13Cの移動を調べた。木部試料からは細胞壁成分の前駆物質を含む画分と細胞壁、さらに細胞壁はホロセルロース、セルロース、リグニンに分画して、それぞれの成分への13C取り込み量の経時変化を調べた。光合成により取り込まれた標識13Cは速やかに木部に移行して細胞壁に堆積し、細胞壁の各成分に取り込まれていた。また13CO2投与のタイミングにより13Cの取り込みの挙動には差違が検出された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前年度に13CO2によるパルスラベリングの方法とその後の試料調製法について検討を行い、平成28年度はこの方法を用いて異なる条件下での13C標識ポプラの作出とその分析を行った。まず明暗周期の中での13CO2投与のタイミングと投与からの経過時間を変えた13Cラベル試料の作出を行った。これらの試料について細胞壁構成成分の調製と各成分への13C取り込み量の測定が完了した。SIMS測定のためのサンプル調製と13Cの分布解析についても予備的な測定を終えた。これらより標識13Cの取り込み過程について結果を得ることができた。一部の条件では13C取り込み量の個体差が大きく、再実験を要すると判断したものもあるが、すでに準備が進んでおり大きな遅れにはならないと考えて、おおむね予定通りに進行中とした。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度には、木部細胞壁への標識13C取り込みについておおよその傾向が把握できた。今後はさらに細胞壁内分布、細胞内分布など詳細な解析を行う予定である。加えて、形成層帯や師部への特徴的な標識13C分布がこれまでに観察されている。これらについてもSIMSによる解析を行い、光合成による炭素の供給と木部形成の関係について考察する。
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Causes of Carryover |
通常3月中に開催されるアメリカ化学学会大会が2017年4月に開催されたため、当学会に参加するための参加登録費、ならびに海外旅費の予算として次年度使用額とした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
2017年4月の国際学会参加にかかる経費に使用する。残額は消耗品購入や同位体測定に要する経費に使用予定である。
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Research Products
(1 results)