2015 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
15K07511
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
粟野 達也 京都大学, (連合)農学研究科(研究院), 助教 (40324660)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | G層 / 引張あて材 / 凍結割断 / 凍結乾燥 / FESEM |
Outline of Annual Research Achievements |
2015年3月31日にホオノキ1個体、4月2日に交雑ポプラ(Populus carolinensis x P. nigra)2個体、4月10日にユリノキ1個体を約30~45度傾斜し、ロープで固定した。ホオノキは7月21日、交雑ポプラは6月1日および6月16日、ユリノキは7月21日に傾斜上側の分化中木部を露出し、ひずみゲージ法により表面成長応力解放ひずみを測定した。いずれの個体も傾斜下側に比べて大きな縮みの解放ひずみが測定された。測定部位付近より分化中木部を含む小ブロックを数個切り出し、パラホルムアルデヒドまたはグルタルアルデヒドで固定した。一部のブロックは脱水後樹脂包埋した。残りのブロックからはスライディングミクロトームを用いて連続板目面切片を作成した。樹脂包埋ブロックより薄切片を作製し、光学顕微鏡で観察した。交雑ポプラではいずれの個体でもG層を有するゼラチン繊維の形成が確認された。交雑ポプラの薄切片を抗ガラクタン抗体(LM5)で標識したところ、G層形成初期のゼラチン繊維ではG層全体に標識がみられたが、形成後期ではS2層とG層の境界付近およびG層の内表面に標識が見られた。 交雑ポプラの連続板目面切片を液化窒素で冷却した純銅ブロックに圧着することにより急速凍結した。凍結した切片を凍結割断試料作製装置(日本電子JFD-9010)に入れ、高真空下、-143K以下で割断した。割断した試料は液体窒素で冷却した真鍮製容器に入れ、真空蒸着装置(日本電子JEE-4B)内で真空乾燥した。乾燥した割断切片を走査電子顕微鏡試料台に載せ、イオンスパッタで白金コーティングし、フィールドエミッション走査電子顕微鏡(日立S-4800)で観察した。G層形成中木部繊維の細胞壁割断面は容易に確認することができた。形成中のG層では一方向に配向したフィブリルが密に堆積しており、空隙はほとんど観察されなかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
引張あて材の誘導、表面成長応力解放ひずみの測定、試料の採取、固定、樹脂包埋、ガラクタンの免疫標識、連続板目切片の作製、急速凍結、凍結割断、凍結乾燥、フィールドエミッション走査型電子顕微鏡による観察、以上の一連のワークフローを確立することができた。 当初計画では振動刃式ミクロトームによる連続切片の作製により形成段階を分画することを予定していたが、あて材形成中の分化中木部組織は正常材のそれよりも硬く、振動刃式ミクロトームを用いずともスライディングミクロトームで切削可能であることがわかった。 凍結割断ディープエッチング法による細胞壁微細構造の観察では、当初金属圧着法による急速凍結を予定していたが、従来の急速凍結法よりも広範囲に無氷晶の凍結領域を得ることができるとされる高圧凍結装置(Leica HPM100)が所属研究室に導入されることになった。そこで、凍結割断ディーープエッチング法および透過電子顕微鏡による観察を一旦凍結し、高圧凍結装置Leica HPM100から凍結割断試料作製装置日本電子JFD-9010へのワークフローの構築を検討した。具体的には、両装置で相互運用可能な試料キャリア形状の選定およびそれらをJFD-9010で利用するためのホルダの設計をした。 凍結割断後に凍結乾燥した試料をフィールドエミッション走査型電子顕微鏡(FESEM)で観察したが、FESEMが十分な分解能を持ち、しかも広い視野で観察できるという利便性を改めて実感した。そこで、凍結したままFESEM観察ができるクライオステージ付きFESEMを利用すべく、装置を保有する学外の研究者と情報交換をした。
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Strategy for Future Research Activity |
当初計画では、あて材形成過程における細胞壁微細構造の変化を凍結割断ディープエッチング法(FFDE)でレプリカ膜を作製して透過電子顕微鏡観察するとともに、次世代シーケンスにより形成過程での遺伝子発現変動を調べる予定であった。 FFDEでは観察試料を氷晶のない状態で凍結することが必須であるが、従来の急速凍結法では試料表面のごく限られた深さしか凍結できず、観察の効率が悪いとともに、アーティファクトが生じる可能性が高い。この問題は高圧凍結(HPF)を用いることで解決できると考えられる。 木材組織からレプリカ膜を作製する場合、試料の洗浄過程でレプリカ膜が断片化するため、組織レベルの広視野で観察することは難しい。しかし、FFDE後にレプリカ膜を作製せず、凍結したままフィールドエミッション走査電子顕微鏡(Cryo-FESEM)で観察することができれば、広視野かつ高分解能で細胞壁微細構造を観察することができる。これまでのところ、HPF、FFDEからCryo-FESEMのワークフローで分化中木部細胞の細胞壁微細構造の観察を行った例はほとんどない。この手法を確立することは本研究課題のあて材形成過程の観察のみならず、正常材の細胞壁形成の研究にも重要である。そこで、次年度予定していた次世代シーケンスによる形成過程での遺伝子発現変動は先送りし、HPF、FFDEからCryo-FESEMのワークフローの確立に注力することとする。
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Causes of Carryover |
当初計画であった凍結割断ディープエッチング法による細胞壁微細構造の観察と次世代シーケンスによる非セルロース性多糖類関連遺伝子の発現解析のうち、前者で急速凍結から高圧凍結へ凍結技法の変更が生じ、前者の研究を優先するため、後者関連の試薬の購入が先送りとなったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
翌年度分の物品費と合わせて高圧凍結装置に必要な消耗品の購入に充てる。
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