2015 Fiscal Year Research-status Report
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15K07530
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Research Institution | Nagasaki University |
Principal Investigator |
鈴木 利一 長崎大学, 水産・環境科学総合研究科(水産), 教授 (20284713)
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Project Period (FY) |
2015-10-21 – 2018-03-31
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Keywords | 海洋生態 / 食物連鎖 / 貧酸素水塊 |
Outline of Annual Research Achievements |
申請者が内定の情報を得たのは平成27年10月である。それ以降は海洋の成層化が解消しており、貧酸素水塊が発生することはなかった。そこで、平成27年度については、環境調査器材(水質計や溶存酸素計)の購入と、その操作の確認・習熟を行った。 また、練習用の採集試料を用いて、定量鍍銀染色法(QPS: quantitative protargol staining)を改良するとともに、その技量を向上させた。この染色方法は、セルロース混合エステル製のフィルターで浮游微生物試料を濾過・濃縮し、フィルター上の微生物をもれなく寒天膜で接着し、接着した状態を保ちながら細胞の核や微小管等を染めて、微生物細胞内外の構造を明らかにするものである。ただし、既定の過程に忠実に従うと、細胞内外の構造が濃い紫色に染まり、そのコントラストが強すぎるために、染色部位の細かい構造を確認することが困難であった。そのため、一連の染色過程から、塩化金による還元操作のステップを取り除くことで、染色の色相を紫色から茶色に変え、染色後のコントラストを弱めて、染色部位の微細構造の把握を可能とした。封入の過程においては、天然樹脂であるカナダバルサムを新たに使うことで封入後のフィルターの透明度が上昇し、透過光を用いた微分干渉観察が可能になった。このことで、超微細な構造を適度なコントラストを保持した像で観察することができ、今まで以上に良好なプレパラートを作成することが可能となった。 さらに、平成27年11月26~28日に長崎大学の練習船鶴洋丸に乗船し、有明海奥部で夏季に貧酸素水塊が頻繁に発生する測点において、水柱中の浮游微生物を採集した。このときは、貧酸素水塊が発生してはいなかったが、このサンプルを、貧酸素水塊中に生息する生物群の比較対象標本として活用する準備をすることが出来た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
申請者が内定の情報を得た平成27年10月以降は、海洋の成層化が解消して鉛直混合が強くなる季節であり、平成27年度末までに海洋の貧酸素化を期待することはできず、また、実際に生ずることがなかった。そのため、平成27年度中には、平成28年度の夏季に発生する貧酸素水塊を研究・実験するための準備や練習に専念する計画をたて、実際に準備・練習を行ってきた。 貧酸素水塊中の海洋環境を測定するために、水質計および高精度な溶存酸素計測を購入し、それらの組み立ておよび事前調整・キャリブレーションを行った。測器の特徴や癖を把握して、平成28年度の現場観測時には、それらを良好な状態で直ちに用いることができるよう入念な準備を行った。 また、平成28年度に向けた準備・練習の過程において、微生物生物相を把握するうえで欠かすことが出来ない染色法を独自に改良し、微生物細胞の内外の構造をより正確に観察することが期待できるプレパラートを作成することが可能となった。 さらに、11月26日から28日にかけて長崎大学の附属練習船に乗船し、有明海の奥部の海洋環境を調査した。貧酸素水塊が夏季に発生する可能性が極めて高い海域において、貧酸素水塊非発生時の生物群集試料を採集し、それを、貧酸素水塊発生時の標本の比較対象標本と使用できるようにした。 以上のように、平成27年度の研究実施計画として列挙した項目は、平成27年度中にほぼ実行することが出来たことから、「おおむね順調に進展している。」の区分を、現在までの達成度として選択した。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度は4月から10月にかけて、大村湾の観測を毎月行い、貧酸素水塊の発生時だけではなく、非発生時の微生物相の調査も行う。特に、7~9月には大村湾の表層の水温が上昇し、成層化が顕著となる。海底付近には貧酸素水塊が出現し、その出現に合わせて、試料の採集・海洋環境の調査を行う。長崎県水産試験場や長崎県衛生公害研究所が公表する速報値や、長崎大学の実習船が調査した速報結果を基に、貧酸素水塊の発達の程度や位置を追跡する。 顕著な貧酸素水塊が発達した場合(溶存酸素濃度が2 mL/L以下となる時)には、実習船に乗船するか傭船を手配するなどして、該当する海域に出来るだけ速やかに向かう予定である。貧酸素水塊の中心部をできるだけ的確にとらえるように、測点を設け、海底直上水を1~2 L採集する。採集した海水を酢酸ブアン液で固定し、固定試料を研究室に持ち帰る。 冷却期になり、海水の鉛直混合が強くなる秋~春には、貧酸素水塊の出現は期待できない。そこで、採集した試料やデータの処理、また、顕微鏡による標本観察を中心に行う。顕微鏡観察で確認できた原生動物個体を、可能な限り下位のタクソンまで分類し、新種があれば(嫌気的な環境における原生動物はあまり知られていないため、その可能性は大きい)、記載・公表を行う。繊毛虫種であれば、新種記載・公表を申請者自信で行うことを予定しているが、他の分類群であったならば、国内外の専門家にプレパラートを送付し、新種記載の協力をお願いする予定である。 なお、原生動物を属や種のランクで分類・同定し、形態を記載し整理していくことは容易ではなく、長時間の顕微鏡観察を必要とする。そのため、平成29年度は、引き続き嫌気性の原生動物の分類・同定と記載を行い、さらに、食胞中に存在する餌生物についても分類・同定を行う。
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Causes of Carryover |
平成27年10月26日に提出した「平成27年度科学研究費助成授業(学術研究助成基金助成金)交付申請書」に従って、できるだけ無駄なく有効に物品を購入してきた。しかしながら、平成27年度内に過不足なく収めることができず、やむを得ず140円を余らせてしまった為、次年度使用額が生じる結果となってしまった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度使用額140円については、平成28年度の物品費として(特に、試薬類の購入にあて)、無駄なく有効に活かす予定である。
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