2016 Fiscal Year Research-status Report
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15K07559
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Research Institution | Shimonoseki City University |
Principal Investigator |
濱田 英嗣 下関市立大学, 経済学部, 教授 (80172972)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 物流機能 / 参入意思の有無 / 技術的ノウハウ / 労働力不足 |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度提出の調査実施計画に沿って、水産生鮮ベンダー業態に参入可能性がある業種、企業で広角的に調査を実施した。具体的には、すでに物流機能を自社で保有している卸売企業(地方卸売市場の郡山水産配送センター)、中央卸売市場関連では積極的に場外活動等「脱卸売機能」を目指している株式会社うおいち、中水青森中央水産株式会社、九州魚市株式会社、スーパーでは産地からの直接仕入れに積極的な株式会社丸久とサミット株式会社、大手商社系で産地取引に乗り出しつつある株式会社日本アクセス等々において、担当者から水産生鮮ベンダーの現状認識及び今後の参入意思の有無について聞き取りを行った。 調査研究2年目(平成28年度)の研究成果は以下のとおりである。つまり、水産生鮮ベンダー業態(領域)に、卸売市場内の卸売企業、スーパー、商社系企業が新たに新規参入する可能性はかなり低いという結論に到達した。まず、卸売市場内の卸売企業は取扱高の漸減から新たな業態に新規投資しうるリスク負担力が低下している。スーパーも現在の事業収益を維持することに汲々とし新規事業を立ち上げる余力がなくなった。当該事業の参入に最も可能性が高いと思われた商社系企業は資金力はあるものの、水産物取扱に対する技術的ノウハウが欠落しており、卸売市場の卸売企業との連携を今後も継続させるものと判断している。これらの聞き取り結果より、水産生鮮ベンダーに新規参入する経済環境が資金不足、人材不足、物流で働く労働力不足(ドライバー)の点で悪化し、生鮮ベンダー会社を新たに設立する条件が厳しくなったとの認識に至った。 ただし、より高鮮度・高品質な生鮮水産物を届けるという流通システムの高度化は各企業とも追求することに変わりはなく、最終年度では、既存の流通システムを利用しつつネットワーク化を進めている卸売市場内の卸売企業の取り組み(生鮮ベンダー機能の取込)について調査を行う。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
生鮮水産物に係る物流事業はその大半が中小零細経営である。しかし長距離トラックやバスの事故が社会問題化したことから、ドライバーの2人体制となり、またドライバー不足から経営そのものが危ぶまれるようになった。水産生鮮ベンダー事業は自前の物流機能を組み込み、高鮮度水産物を流通させることで他社との比較優位を構築することが要諦なので、物流事業そのものの危機が当該事業への新規参入の大きな障害となっていることが判明した。したがって、この点を中心に聞き取りを行うことで効率的な調査が実施でき予定以上に調査研究が進捗した。 加えて、物流機能をすでに有している企業(卸売市場内の卸売会社)においても、ドライバーの高齢化(定年後の再雇用で人出不足をカバー)や人件費比率の上昇から、他社との連携(輸送網の共有、分担化)に取り組んでおり、新たに水産生鮮ベンダー機能を経営として内部化する余裕がないことも明らかとなった。水産生鮮ベンダー事業に新規参入する可能性が最も高いと思われた商社系企業では、当該事業そのものには関心を持っているものの、生鮮水産物を取扱う流通技術の蓄積がなお乏しく、資金力はあるものの水産生鮮ベンダー事業を直接開始するには人材不足であり(畜産では一部参入している)、近い将来当該事業に参入する可能性は低いと判定した。 したがって、すでに水産生鮮ベンダー事業を行っている企業は、これまで生鮮水産物流通技術、水産物以外の畜産物等食品全体に係る全国的物流網など当該企業組織として長年培われたノウハウという基盤があり、段階を踏んで水産生鮮ベンダー事業に至っている。このように整理すると、生鮮水産物の流通技術を蓄積し、人材も豊富な卸売市場の卸売企業が自らが物流手段を持たなくとも、生鮮ベンダー機能の仲介役として新たな生鮮水産物流通を創出する可能性が高く、この点を最終年度に明らかにしたい。
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Strategy for Future Research Activity |
水産物の物流ビジネス環境の悪化さらに水産物中間流通における既存の卸、小売事業の収益減などから、彼らが近い将来水産生鮮ベンダーに新規参入する可能性が低いことが聞き取り調査より明らかになった。つまり、卸売市場流通を否定し独自のベンダー機能を追求する新たな経営は誕生しないと思われる。生鮮水産物流通を巡る状況は魚離れに代表されるマーケットの縮小や物流条件の悪化により、新たな経営リスク負担を伴う新業態が普及する状況にはないという認識に至った。 ただし、卸売市場流通の弱点を補完するタイプ(卸売市場流通との連携を目指すベンダー)は経営リスク負担の分散面からも可能性があり、最終年度はこの点に焦点を絞り積み残された研究課題に対して調査を行うとともに、3ケ年にわたる調査研究の総括作業に充てる。卸売市場流通の弱点を補完し、卸売市場流通との連携を目指すベンダー調査に関しては特に計画出荷が可能な養殖魚についてその蓋然性が高く、かつ商社系企業での聞き取りでも天然魚よりもその可能性が指摘されたので、対象魚種を養殖魚(養殖ブリを中心に)として調査を実施する。
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Causes of Carryover |
水産生鮮ベンダー事業への新規参入条件として新たに物流事業を組織内部に取り組むかどうかが分岐点となることが重要事項として浮上し、その点に調査のポイントを絞ったことで効果的な調査が可能となったため(調査対象に対する二次調査が省略できた)。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
水産生鮮ベンダーとして新たに企業経営を発足させるのではなく、卸売市場内の卸売企業がこれまでにない流通機能(ネットワーク機能)を経営内部に取り込み、既存の卸売市場と違う流通サービスが追加される可能性があり、この点からとくに養殖魚を中心に卸売市場内の卸売企業を対象に調査を実施する。
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