2015 Fiscal Year Research-status Report
血合肉含有低分子セレン化合物の栄養有効性と抗がん活性の評価
Project/Area Number |
15K07589
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Research Institution | Kansai University |
Principal Investigator |
吉田 宗弘 関西大学, 化学生命工学部, 教授 (30158472)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
福永 健治 関西大学, 化学生命工学部, 教授 (30278634)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | セレン / 血合肉 / マグロ / 栄養有効性 / 抗がん |
Outline of Annual Research Achievements |
セレンが必須微量元素であり、かつ低セレン栄養状態ががんを始めとする慢性疾患発症のリスクを高めるという疫学研究が存在することを背景として、高セレン酵母や高セレンブロッコリなどを素材としたセレンサプリメントが市販されている。魚の加工において廃棄されている内臓や血合肉は、筋肉よりも多くのセレンを含んでいることから、セレンサプリメントの素材として活用できる可能性がある。しかし、食品中のセレンは多様な化学形態であるため、食品ごとに異なる栄養有効性を持つことが知られている。本研究室では、マグロ血合肉をアセトンで処理して得られるタンパク質画分に含まれるセレンの有効性は亜セレン酸に匹敵すること、およびマグロの内臓や血合肉に構造未知の低分子化合物の存在することを示してきた。このような低分子セレン化合物は、魚のセレンの低有効性と関わりがあるかもしれない。そこで、本研究では、魚肉の非タンパク質性低分子画分に含まれるセレンの栄養有効性を推定する目的で、マグロ血合肉の非タンパク質性低分子画分に相当する希塩酸抽出物に含まれるセレンの栄養有効性を動物実験により検討した。その結果、血合肉に含まれるセレンの栄養有効性が亜セレン酸に比較して低く、血合肉希塩酸抽出物の有効性が血合肉全体よりもさらに低い結果が得られた。血合肉から希塩酸で抽出される成分は低分子化合物であると推定できる。低分子セレン化合物と推定されるセレノネインは構造的に極性が高く、エタノールやアセトンには可溶であると考えられる。アセトン処理によって低分子成分を除去してタンパク質画分のみとした脱脂血合肉の栄養有効性が亜セレン酸に匹敵したという過去の研究結果と今回の結果をあわせると、血合肉全体のセレンの低有効性の原因は希塩酸によって抽出されるセレノネインをはじめとする低分子性のセレンにあると推定できる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成27年度では、血合肉の低分子セレン化合物画分を含む希塩酸抽出物を餌料に混合し、セレンの栄養有効性を評価した。食品中セレンの栄養有効性は定量的な概念であることから、「Slope ratio法」を用いて栄養有効性を数値化することが望ましい。Slope ratio法とは、セレン欠乏状態のマウスに食品由来セレンを段階的に投与し、投与セレン量とセレン栄養状態の指標(組織中のグルタチオンペルオキシダーゼ[GPX]活性およびセレン濃度)との間の回帰式の傾きを亜セレン酸ナトリウムと比較する方法である。本方法を用いて、血合肉低分子セレン化合物の栄養有効性を評価したところ、亜セレン酸と比較し栄養有効性が低いことが示唆された。 また同時に研究を進めている低分子セレン化合物の化学構造の同定に関しては、誘導結合プラズマ質量分析(ICPMS)が経年劣化のため使用ができず研究が滞っていた。しかし、昨年度末に新しいICPMSを導入できた。そのためゲル濾過カラムを装着した高速液体クロマトグラフィー(HPLC)とICPMSを連動させた分析系(HPLC-ICPMS)で、セレンの安定同位体である82Seのピークをプロットし、溶出位置から同定を行う。またC18逆相シリカゲルカラムおよびゲル浸透クロマトグラフィーによって低分子セレン化合物を精製し、より詳細な構造分析により同定を行う。平成28年度から低分子セレン化合物の同定に関する実験を進めていく予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度に血合肉中の低分子セレン化合物の構造が同定できなかったために、HPLC-ICPMSを用いて同定を進めていく。化学構造が同定できた後に、動物実験の餌料に混合する低分子セレン化合物の分画を、ゲル濾過カラムクロマトグラフにより進める。 動物実験により、血合肉の希塩酸抽出物のセレン栄養有効性が低いことが示唆された。今後は低分子セレン化合物の体内動態を明らかにするために各臓器、血液、糞、尿に含まれるセレン化合物の化学構造を分析する。その方法としてHPLC-ICPMSを用いてセレン化合物を同定・定量する。 化学物質で誘発した前がん病変マウスに低分子セレン化合物を給餌して、がんイニシエーション抑制効果について評価する。申請者らは、1、2-ジメチルヒドラジンにより惹起した大腸前がん病変マウスを用いたがんイニシエーション抑制効果を評価する方法を確立している。ヒトにおいても大腸がん前癌病変の生物学的指標として臨床応用が進んでいる異常腺窩巣(ACF)の発現抑制効果を指標にし、大腸を固定後、メチレンブルーで濃染色されるACFを光学顕微鏡(×40)で計測する。
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