2015 Fiscal Year Research-status Report
水産資源の持続的利用を促進するフードシステムの構造改革:小売主導型流通に着目して
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15K07613
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Research Institution | Nagasaki University |
Principal Investigator |
山本 尚俊 長崎大学, 水産・環境科学総合研究科(水産), 准教授 (00399099)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 水産資源の利用問題 / クロマグロ / フードシステム / 小売主導型流通 / 川下規定 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、持続可能な水産資源開発・利用を促進するフードシステムの要件・課題の探究を目的としている。具体的には、管理強化が進むクロマグロを例に当該システムの構造・問題を川下(小売)起点で捉える。本年度は、計画に即し、1水産物市場流通の揺らぎの実態、2クロマグロの管理強化と需給変化、3同種川下需要の一基軸を成す量販店の取扱概況を中心に調査研究を進めた。1~3に関し得られた主な知見は次の通り。 1 川上・川下の変化に順応できず、市場流通の後退や機能低下が目立つ。産地機能を併せ持つ福岡市中央卸売市場も例外なく取扱高が激減、市場取引の寡占化や卸・仲卸の業務・機能競合も確認された。近年の市場政策は経営戦略策定等を各市場に求めているが、その実効性を高め、市場の復調・改革を促す上でも法制度の綻びの是正はもはや避けられない課題と考えた。 2 大西洋・太平洋の管理強化下で2007年以降、クロマグロの国内供給量は漸減するが、旋網(100㎏以下)・養殖物の市場価格は管理強化方針公表前後に一時的な上昇を示すに過ぎない。川下需要の一軸を量販店が担う点を考慮すれば、市況高騰下のその仕入抑制が需要の総体的縮減に結びつき、結果生じる在庫の滞留が供給過剰感を醸成し市況は弱含みとなる、つまり供給減少下でもその取引や価格に川下の規定力が強く及ぶことが示唆された。 3 クロマグロを品揃えの差別化に有効な種と評する量販店は多く、水産物販売の停滞・漸減下でその重要性は増すが、売価の高さや販売期限の短さも関係し多額の販売ロスが伴う。昨今の管理強化下で供給量や相場の不確実性が増す中で、安定仕入は勿論、原価抑制やロス圧縮等を含む商品化対応が販売成否の鍵を握ることが示唆された。完全養殖物へ販売対象の切り替えを進めるものも一部あったが、管理措置を踏まえ産卵親魚や未成魚等の販売を自主的に中止・削減する組織は極めて少ない状況が確認された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
交付申請時の計画では、水産物一般の流通変化を卸売市場再編の視座から捉え、また検討対象種の管理規制・需給変化などフードシステムの基本条件を俯瞰する、量販店によるクロマグロ等の取扱状況を郵送調査で定量的に把握する、ことを本年度課題とした。 卸売市場再編の検討は産地・消費地両側面を持つ福岡市場に限られたが、縮小再編下での市場業者の対応行動から現行卸売市場制度の綻びの一端(卸・仲卸二段階制の揺らぎ)を捉えることができた。その内容の一部、とくに前提情報は学会で口頭発表した。他方、管理規制・需給変化や量販店の取扱状況の把握・検討では、調査の物理的・時間的な実現可能性を考慮し、調査対象をクロマグロに絞ったが、同種の昨今の管理規制強化の流れやその下での国内需給変化に関し前掲2の知見を得た。その内容をひとまず紀要論文として整理し、2016年3月に発刊された。また、量販店の取扱概況把握に関しては、郵送調査の実行可能性を探るため聞き取り調査(九州3組織・関東5組織と両地区市場卸等)を実施した。その回答や反応に、回収率確保を考慮し郵送調査内容・狙いをマグロ販売上のクロマグロの位置やその種別構成、管理強化に伴う販売の見直し有無など取扱概況に絞る(競争関係や対応戦略の側面は除外する形に変更)結果となったが、全国1,070組織に郵送・配布し47都道府県の年商30億円未満~1兆円超の300組織から回答を得た(回収率28.1%、うち有効回答97.7%)。申請時の想定より回収率は低かったが、前掲3の状況が確認でき、また小売組織調査の困難性を考慮すれば十分な協力が得られたと考える。上記の取扱概況さえ把握可能な統計・資料は存在しないことからも、本調査結果が情報的に概況に止まるとしても量販店の取扱実態の一端を把握できた点で収穫は大きかったとみている。 以上から、当初の計画を概ね実行できたと判断・評価している。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度調査時の協力先の回答・反応を考慮すれば、個別企業の業務や戦略等に係る部分は秘匿事項として調査協力が得難く、検討内容・対象の見直しが必要となる可能性もあるが、原則、当初の実施計画に即して調査研究を進める予定である。 すなわち、平成28年度は、前年度実施した聞き取り・郵送調査結果を踏まえ、量販店の商品化対応を中心に調査研究を進めたい。検討に際しては、昨今の太平洋クロマグロの管理強化と関連が深く、かつ量販店の当該販売で生鮮品の主軸を成すことが上記郵送調査で明らかとなった養殖物や旋網物等に対象を絞る。その上で、マグロ販売上、クロマグロの重要度が高い関東(マグロ販売額に占めるクロマグロの比率が最も高い実態が郵送調査結果で確認済み)等の量販店を対象に、主に販売・機会ロス抑制と製品設計及び仕入対応の連関、仕入チャネルと主体間関係等に焦点をあててヒアリング調査を行う予定である。量販店が仕入・価格の安定や販売・機会ロス問題に如何に対応しているのか、その実相把握が狙いである。 なお、川上・川中(納品業者)側からみた量販店取引の実態やその功罪等は平成29年度に本格実施予定だが、上述した28年度の検討内容との関連で必要があると判断した場合にはその調査も予備的に行う方針である。
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Causes of Carryover |
平成27年度は約1.3万円の残額が生じた。当初支出計画に比べ、物品費・旅費・人件費・その他の各費目で多少の増減が伴うため、一概にその理由を1つに特定することは難しいが、主に郵送調査の支出内容の変動が関係したと考えている。 すなわち、当初計画では、印刷・製本・封入・封緘・送付先宛名印刷等を全て外注し、その発送作業や回収後のデータ入力等を学生アルバイトの雇用で対応する予定であったが、研究費のより合理的な利用に配慮し、外注を主に製本・封入迄とし、その他作業(封緘・発送、データ入力等)は申請者自身で行うことで経費節減に努めた。また、結果的に当初見込みより回収率が低かったことで、調査票返信分の郵送費が少額となった。他方、当初の予算計画に含んでいなかった粗品やリマインダー葉書の活用(回収率を向上させるため)や、集計結果概要書類の作成・印刷費やその調査協力先(希望者のみ)への郵送費等にあてた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
上記により結果的に生じた約1.3万円の残額(次年度繰越)に関しては、平成28年度に実施する前掲聞き取り調査・資料収集のための旅費に充当する。したがって、平成28年度の費目別予算は、物品費250,000円、旅費563,069円、その他200,000円(申請時の当初計画からの変更点は旅費のみ)を予定している。
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Research Products
(2 results)