2016 Fiscal Year Research-status Report
水産資源の持続的利用を促進するフードシステムの構造改革:小売主導型流通に着目して
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15K07613
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Research Institution | Nagasaki University |
Principal Investigator |
山本 尚俊 長崎大学, 水産・環境科学総合研究科(水産), 准教授 (00399099)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | クロマグロ / 量販店(GMS・食品SM) / マーチャンダイジング / 販売・機会ロス問題 / 組織内・組織間取引関係 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、持続可能な水産資源開発・利用を促進するフードシステムの要件・課題の探究を目的として、クロマグロの現行流通・取引の構造と特徴を川下起点で検討している。本年度は、ロス・原価抑制に焦点をあてて量販店の商品化対応を検討した。具体的には、まず分析軸の導出やその妥当性を確認するため、前年度に得たアンケートデータを用いて(1)取扱実態の特徴整理と(2)仕入行動の定量分析を行った後、(3)聞き取り調査を実施した。 (1) 商材的位置づけや取り扱いの枠組みをエリア又は出店区分を軸に確認した上で、収益を規定するロス問題とその独自抑制対応の限界を検討した。商品の荷動きが消費者の値ごろ感や競合店価格に影響され、販売ロスや仕入高騰時の売価への転嫁に限界があるほか、その内部化は収益低下を、同ロス低減を狙った仕入・陳列抑制は機会ロスを誘発する。ロスや仕入価格の抑制対応力が商品化の可否や成否、ひいては取扱動機を規定することが示唆された。 (2) 上記対応限界(採算性)を念頭に、量販店が仕入抑制に動く価格水準を推定した結果、築地市況上限と概ね一致することが確認された。また同データを代用した仕入価格の規定要因の分析では、組織規模や販売ロス、管理強化に伴う仕入の見直し等が価格を押し下げる要因となることが明らかとなった。前年度の検討でみられた市況の短期下落が、量販店の仕入行動に影響された可能性が示唆された。 (3) 関東の量販9社を対象としたロス・原価抑制に係る実態調査では、品揃えは店舗に一定の裁量を与えつつ販売計画や商品調達等MD機能を本部に集約する、形態・売価変更を含む陳列管理の徹底は勿論、仕入の小口化や確定発注の延期等によって店舗の在庫圧縮や仕入精度向上を目指す等の対応がみられた。それと関連し、取引条件や納品対応の改善を促す上で、仕入先管理(一元固定、複数分散等)が重要な意味を持つことも想定された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
交付申請時の計画では、量販店の取扱実態及び商品化対応をより具体的に捉えるため、関東・関西の主要量販店で聞き取り調査を行うことを2年目の課題とした。結果的に、クロマグロの重要度が最も高い関東に地域を限定し、調査内容・項目を販売・機会ロス及び仕入対応に絞るなど当初の計画を一部変更したが、食品SM大手(リージョナルチェーン)を中心にローカルSMや全国展開するGMSの計9組織、および納品業者数社で聞き取り調査を行い、前掲研究実績の概要に記した情報・知見を得た。部分的な軌道修正を強いられつつも調査・検討は概ね実施できたが、その分析軸・着眼点の抽出・精査を前提に聞き取り調査に先行して前年度アンケートデータの細部の検討を追加実施したことなども関係し、調査の対象地域や業者数を見直さざるを得なくなったこと、聞き取り調査では秘匿性の絡む部分について当初の想定以上に事実関係の把握が難しく、また、とくに納品業者(川中・川上)側の予備調査では協力を得られず断念した先も複数あるなど予定通りの調査・検討が必ずしも行えた訳ではないこと、さらに成果の整理・公表面では、前年度検討課題の1つであった水産物卸売市場流通の揺らぎに関わる調査・検討結果を取り纏め学会誌論文として公表、また上記量販店の聞き取り調査内容も活用しつつアンケートデータの分析結果を中心に学会等で口頭発表も行ったが、その(後者の)論文化を28年度中に完遂できなかったこと、から「やや遅れている」と判断・評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
交付申請時の計画に即せば、最終年度は(1)納品業者側から量販店取引の実態と功罪(本年度明らかにした量販店の商品化行動(とくにロス・原価抑制対応)が納品業者に問う点や及ぼす影響)を捉える、(2)既存調査・検討結果も交え、流通・取引構造・特徴を主体間関係の視座から概括・素描し資源の持続的利用のためにフードシステムはどうあるべきかを考究する、ことを予定している。(1)の納品業者の実態調査は、国産養殖(生産者又はその親会社)や旋網(産地市場卸・買受業者)を想定するが、その調査そのものの実施を含め、見直しを余儀なくされる可能性もある。これは、今年度、川上・川中の予備調査を実施した際、取引条件・関係をはじめ個別の取り組みや戦略等に関わる内容は秘匿性が強く事実関係を捕捉し難かったこと、当該組織の中に旋網等を傘下に持つものもあったため調査協力を打診したが、同漁業への注目・批判が強まる昨今の情勢下にあって快諾は得らなかったことによる。それら(1)の調査可否を現時点で判断することは難しく、また時期尚早なため、当初の計画に沿って検討を進める予定だが、仮に実施が困難と判断された場合は主体間関係の精査(既存の検討の掘り下げ)及びフードシステムの再編課題の導出に係る調査・検討に注力・軌道修正する方針である。 なお、上記と並行し、29年度中に、今年度完遂できなかった前掲成果の論文化・公表を目指すとともに、研究実績の概要3に示した実態調査・検討結果についても学会等で口頭発表したいと考えている。
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Causes of Carryover |
聞き取り調査実施に際し、必要に応じて事前・事後的に対象組織の企業情報等を入手するため、信用情報機関の企業検索サービスを定期契約している。その情報取得費用を年度末まで確保しておきたかったことから予算の完全執行を見送った。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
残額は次年度の情報検索や調査費等に活用する計画である。
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Research Products
(6 results)