2015 Fiscal Year Research-status Report
農協による大規模農業経営の「半公共的性格」をめぐる実証的・理論的研究
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15K07620
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Research Institution | Tokyo University of Agriculture |
Principal Investigator |
谷口 信和 東京農業大学, 農学部, 教授 (20115596)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | JAによる農業経営 / JA出資型法人 / 半公共的性 / 農地賃貸借 / 新規就農研修事業 / 農地利用調整機能 / 市町村農業公社 / 耕作放棄地復旧 |
Outline of Annual Research Achievements |
当初計画では平成27年度に実施予定の調査の一部を平成28年度に先送りし、平成28年度以降に予定していた調査の一部を前倒し実施した。本年度の研究によって、以下のような新たな知見が得られつつある。 第1は、農協による農業経営の「半公共性」は、経営の効率性・経済性との間に一定の緊張感をもちながら、地域ごとの事情に配慮して強い公共性から弱い公共性までの幅をもって実現されていることである。T1県の大規模水田K法人はJA出資型ではあるが、従前の公社経営の性格を強く継承して、職員は公社からの出向であり、畦畔除草・水管理等を地権者・定年退職者に請け負わせ、地域の高齢者への雇用機会の提供をめざすという強い公共性を有していた。また、A県のM経営は行政の高い出資比率で設立されたJA出資型法人のため、条件不利農地を全て引き受けざるをえないことからくる採算性の悪化を施設園芸等の積極的導入でカバーするなどの努力を重ねていた。これに対し、G県のI法人は農地引受地区の設定、地代格差や農地管理料金徴収等、経営の経済性を担保することを要件にして、全面積の引受という公共性を実現する方向を採用していた。 第2は、新規就農研修という公共性の高い事業への取り組みは水田農業(S県G経営)から施設園芸(T県G経営)、果樹作(I県E経営)、酪農(北海道H農協)へと多くの作目・畜種に広がるとともに、一方では直売所のサポートによる地域農業振興の新たな方向へシフトし、他方では耕作放棄地の再生・復旧とも結びついて、JAによる農業経営における公共性の連鎖が生まれつつある。 第3は、S県のO農協にみられるように、一つのJAに複数のJA出資型法人が設立される中で、法人間の利用権設定農地の交換による土地利用調整が実現するなど、農地中間管理機構の実施・受け皿機関としてのJAによる農業経営の公共的な役割の発揮がみられはじめたことである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
調査先の事情から、当初計画していた調査先を平成27~28年度の間で適宜入れ替えながら実施したため、本年度は南九州の畜産経営等の調査が実施できなかった。 しかし、北海道の酪農地帯での調査を先行的に実施した結果、研究全体の見取り図が一層明瞭になるという重要な副産物が生まれ、研究課題の鮮明化に大きく貢献することになったため、研究は概ね順調に進行していると評価される。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度は平成27年度に積み残した調査などを実施することで当初計画に沿った研究を進めることができるものと判断される。 また、条件が整えば、別枠で実施する全国的なアンケート調査に取り組み、本研究の位置づけの明確化に努めたい。 なお、北海道の酪農地帯での研究を引き続き強化して、本研究課題に関する歴史的な検討の座標軸を構築することに積極的に取り組むことにしたい。
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Causes of Carryover |
日当の計算において誤りがあり、過払いとなった分を返却したため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
今年度の計画の枠内で使用できる金額であり、特段の問題はない。
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