2016 Fiscal Year Research-status Report
国際競争力のある日本型アニマルウェルフェア畜産フードシステム開発
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15K07624
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Research Institution | Nippon Veterinary and Life Science University |
Principal Investigator |
植木 美希 日本獣医生命科学大学, 応用生命科学部, 教授 (60202230)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | アニマルウェルフェア / 有機畜産 / フランスBIO / BIOフードチェーン / 認証鶏 / 豚の去勢問題 / アニマルウェルフェアフードコミュニティ / JGAP |
Outline of Annual Research Achievements |
日本においては、家畜の幸福と福祉に配慮するアニマルウェルフェアへの関心は必ずしも高いと言えない状況が継続していたが、2020年の東京オリンピック・パラリンピック大会(2020東京大会)において動物福祉に配慮した食材の提供がJGAP認証「持続可能性に配慮した畜産物の調達基準」で明記されたことが追い風となり、アニマルウェルフェアは畜産物フードチェーン関係者の間で重要な視点へと変化している。そこで世界におけるアニマルウェルフェアの進捗実践状況を理解した上で、国内における発展段階を分析するため、海外の先進海外調査と国内調査を実施してきた。 海外調査では、2017年9月にフランス調査を実施した。フランスは近年、政府が2017年に有機農業耕地面積の目標を国内高知の20%に定めている。フランスは原産地呼称制度の品質の高い乳製品が多く、酪農大国であるが、近年消費者ニーズの高まりにより、有機(BIO)生産が増大している。そこで、農林省とCNIEL(フランス乳業協会)にインタビューを行った。さらに現場を知るため、酪農地帯であるノルマンディー地方を中心に調査を実施した。生乳クオータが廃止されたことから、BIO生乳原料としての役割だけではなく、市場で人気の高いヨーグルトの製品開発を行い、自然食品店への新たなフードチェーンを開発する生産者や酪農だけではなく、ホエイを利用した養豚との複合経営に取り組む経営体等、BIOフードチェーンの多様化が見られた。養鶏に関しては新たな認証鶏の開発に邁進する種鶏会社を訪問し、その後、官能試験に参加した。さらには、開発されている製品の市場での取り扱いについて現地のスーパーマーケット等を視察した。 EUではアニマルウェルフェアにおける中心的な課題として豚の去勢問題が議論されているため、国内では、豚及び肉牛の非去勢家畜の問題に取り組んだ。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
EUで特にアニマルウェルフェアが推進されているのは、継続調査によって明らかになっているが、さらに強化されており、生産者レベルでも拡大していることが理解できた。 特にフランスでは、その広がりが著しい。ビオスーパーマーケットも店舗数を拡大しており、日本にもイオンとの提携で進出を果たしている。 酪農部門では、生乳クオータの廃止により、かつ一般生乳の乳価が低迷していることから、BIOに転換する酪農家も見られる。しかしながらBIO原料乳としてだけの生産では経営上、生産者が期待したほどの必ずしもメリットがなく、他の生産者との区別をするため、市場で人気が高く、より高収益を望めるBIOヨーグルトの開発生産に取り組む生産者が出てくるなどの新しい動きが見られた。この経営戦略が成功している。このように酪農乳業に関しては、もともと放牧生産が主体であったたためBIOへの転換が比較的容易に進んでおり、消費者価格でも比較的購入しやすい価格に抑えられている。一方肉鶏に関しては、BIOやラベルルージュに関しては、通常の鶏肉の3倍以上の価格になるため、消費者にとって日常的に購入することは困難であるため、新たなるカテゴリーである認証鶏が開発されている。通常のブロイラーよりは、アニマルウェルフェアに配慮し、長期間飼育したものである。この新しいカテゴリーが市場では、受け入れられており、アニマルウェルフェアと価格のバランスが課題であり、コストの問題がある。 卵に関しては、EU規則通り従来型のケージ卵の販売は見られず、卵殻の表示に関しても、表示方法にばらつきがあるものの徹底している。特に都市型スーパーのモノプリではケージ卵の販売は停止しており、スーパーマーケットがアニマルウェルフェア推進の旗手となっている場合もある。 またEUの雄子豚の去勢問題に関しては積極的な対応は見られなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
過去2年間フランスのアニマルウェルフェアBIO畜産フードチェーンの長さを中心に研究を推進してきた。ちょうど折り返し地点である。今後もフランス調査を継続するとともに国内調査にも注力していきたい。 国内においては、家畜の幸福と福祉に配慮するアニマルウェルフェアへの関心は必ずしも高いと言えない状況が継続していたが、2020年の東京オリンピック・パラリンピック大会(2020東京大会)において動物福祉に配慮した食材の提供がJGAP認証「持続可能性に配慮した畜産物の調達基準」で明記されたことが追い風となり、アニマルウェルフェアは畜産物フードチェーン関係者の間で重要な視点へと変化している。昨年にはアニマルウェルフェアフードコミュニティーが結成され実践生産者グループの組織化が始まっている。また北海道では、旧北海道・農業と動物福祉の研究会が一般社団法人アニマルウェルフェア畜産協会に衣替えし、いよいよアニマルウェルフェア認証へ着手した。日本もようやくアニマルウェルフェアの新しい段階にさしかかったと言える。とはいうものの日本では、まだ取り組む生産者も少数であり、輸入飼料依存型の畜産体制で基準を超えるアニマルウェルフェアに取り組むことができる生産者は極めて少数である。基準を厳格にすると、生産者の裾野が拡大しないという矛盾が存在する。しかしながらやはり基準は必要である。畜産技術協会の「家畜の快適性に配慮した飼養管理指針」はあるが、見直しが必要である。またアニマルウェルフェアの普及活動も必要であろう。そこで日本型のアニマルウェルフェア畜産フードチェーンの開発に向けた課題解明に向けた研究に力を注ぎたい。そのためには国内のアニマルウェルフェア畜産に取り組む畜種別生産者の調査にも積極的に取り組むこととする。その上で、国際競争力を持つ日本型アニマルウェルフェアフードチェーンの開発の方向性を提示したい。
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Causes of Carryover |
フランス調査において早期に訪問先のアポイントメントをとりつけることができ、調査スケジュールが確定したことで格安でTGVの予約をできたことや、現地協力者の存在で、効率よく調査先を回ることができたことが挙げられる。 欧州では、農家が調査謝金を受け取ることは一般的であるが、今年度の調査先の中には、調査の趣旨に理解を示し、協力的で謝金を受け取らなかった生産者の方がいたことで少額ではあるが、支出額を抑えることが可能となった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度もフランス調査を計画しているが、為替レートが値上がりしていること等から、次年度は調査費が増大することが予測される。当初の計画より予算オーバーすることが見込まれるので、前年度に生じた、その差額を充当したい。
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Research Products
(3 results)