2016 Fiscal Year Research-status Report
アニマルウェルフェアに対応した鶏卵流通の分析ー米英台日比較による示唆ー
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15K07625
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Research Institution | Azabu University |
Principal Investigator |
大木 茂 麻布大学, 獣医学部, 教授 (00329195)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | アニマルウェルフェア(AW) / 鶏卵 / 飼養法別価格序列 / 公的規制 / 表示基準 / 生産・流通基準 / フリーレンジ / 消費者意識 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度中に、台湾、英国、米国(カリフォルニア州)、オーストラリア(豪州)、日本で鶏卵小売販売実態調査を行った。いずれも流通シェアの高い小売業を網羅的に調査し、鶏卵販売を品揃えと価格の点から整理することで、一定の知見を得,その都度学会で報告してきた。 27年度に明らかにしたこととして、すでにアニマルウェルフェア(AW)鶏卵が半数近くのシェアを占めている英国では、飼養方法別に価格に序列が出来ているのにたいし、AW鶏卵シェアがまた1割に満たないものの、2015年以降急速にその普及が進んでいる米国では、英国でみられるような価格序列は統計上で看取されるものの、実際の小売店頭では逆転現象も一時的には見られていることであった。 そこで28年度には以下の調査を行い知見を得ることが出来た。第1に、AW鶏卵が3割程度のシェアを占める豪州での価格序列の形成状況を、豪州における議論状況をふまえて調査したところ、公的規制のあり方が曖昧であることが、AW鶏卵の生産/流通に大きな影響を及ぼしていることが明らかとなった。第2に、AW鶏卵のシェアが1~5%の台湾では伝統市場流通が過半を占めていることから、AW鶏卵をめぐる課題も伝統市場流通の課題に大きく影響されていることが明らかとなった。具体的には、伝統流通における常温流通、安全・衛生管理の不透明さへの対応が、AW卵についても優先的に求められているということであった。 以上から、AW鶏卵の展開は国の流通インフラの水準や、AWに対する市民の意識、公的規制のあり方、鶏卵産業の存立構造など様々な要因によって特徴が付与されながら存立していることが明らかとなった。今後の研究課題はそれぞれの国毎の特徴をより明確にしながら、調査国の比較を通じて国際的な共通点や比較に適さない点を明かにし,日本での議論に資する基礎的な知見を得ることである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年、台湾での調査に基づく成果発表を行ったことで、概ね計画に追いつきつつある。ただし、日本におけるAW鶏卵の普及可能性に関する研究は,2014年に短報を出したもののそれ以降の研究が滞っている。AW経営調査が順調に進まないことがその理由である。国内における業界等の方向性が不確かであることで経営の動きも弱い事実がある。そこで、研究の方向性を若干軌道修正し、今年はPOSデータを利用した販売動向の分析と、日本における販売店調査を組合わせて、課題を整理することに取り組む。 また主要国の国際比較を行うことで特徴を見出し要因を整理するなかで、国による条件の違いがAW食品展開にどのような特徴を付与しているかのの整理が必要である。 加えて、想定以上に世界でのAW食品に対するニーズが高まっており、とりわけ米国の需要拡大が急激である為、想像を超えた生産・流通の変化が生じている。そうした状況の変化を的確に把握し、研究テーマ・方法論に反映させていく必要がある。 また、EUでは、例えば英国でビークトリミング禁止が延期されるなど、新たな科学的知見に基づく規制の変化も生じており、そうした科学・技術の状況把握も的確に行ない研究課題と方法に反映させることが必須である。
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Strategy for Future Research Activity |
AW食品をめぐる需給の変化、AWをめぐる科学・技術の変化、AW関連の規制に関する動向を充分に踏まえて整理することが本研究には先ず必要である。その上で、少なくともAW鶏卵の需給動向をふまえたフードシステム上の課題を飼養法別価格序列形成という視点で研究していく。加えて、英/米では鶏肉におけるAWの取り組みが進んでいることから、鶏卵と同様の手法で、その流通上の実態を調査によって明かにし、AW鶏肉をめぐる現状と課題整理が次の大きなテーマとなる。 なお、AW規制をめぐっては、2019年度末頃までに、OIE(国際獣疫事務局)によるAW基準作りが全ての畜種で終了し、ISO(国際標準規格)によって国際的な統一的プロトコルとして整備されようとしている。このOIEの基準自体の検討も重要な研究の素材となるが、OIE基準の社会への適用に際して、各国等における適応上の課題を、これまでの研究成果から示すことがより大きな研究テーマとなる。 こうした検討の一貫として、日本におけるAW適用に際しての生産、流通、消費、政策、の課題整理が位置づけられる。
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Causes of Carryover |
平成28年度は研究代表者が学内業務が繁忙となったこと(学科長)により、十分な調査・研究時間を確保しにくかったことから使用額が予定を下回った。それでも、台湾、豪州、英国、米国への小売り店等調査は実施しているので、平成27年度より使用額は多くなった。また学会発表も2016年7月と2017年3月に行い成果を公表できたので最低限の研究活動は行えたものの、全額を使用することは出来なかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
29年度では約133万円の直接経費予算となる。そのなかで、研究協力者の出張旅費としての使用が難しくなっており、人件費謝金の使用が見込めないことを鑑み、以下のような支出計画としている。POSデータ購入費(108,000円)、米国統計データ購入費(130,000円)、台湾、英国、豪州流通業の統計(それぞれ6万円程度)に当てるかたちで研究に役立つ用に使用する。また予定していた人件費と謝金の十分な活用が難しいため調査旅費に充てて利用する。計画としては、豪州調査15万円、英国調査20万円、米国調査25万円、論文掲載料6万円(掲載決定分)、学会参加(福岡)7万円、学会発表(岩手)6万円、国内産地視察2箇所各6万円。以上を予定している。なお、3年間の成果発表は、2018年5月の農業経済学会(北海道)を予定しており、これは翌年度になる。
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Research Products
(6 results)