2016 Fiscal Year Research-status Report
既存の水質モニタリングデータに基づく面源汚濁負荷量の不偏推定法の開発
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15K07646
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
多田 明夫 神戸大学, 農学研究科, 准教授 (00263400)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 流出負荷量 / 不偏推定 / 面源 / 定期モニタリングデータ / Importance sampling |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、これまで確立されていなかった面源汚濁負荷なども含む河川を流下する流出負荷量の不偏推定法を、定期モニタリングなどの既存の様々なサンプリング法による水質データに基づき計算する手法を開発すること、およびそれを援用した効率的な現地サンプリング手法を確立することにある。 平成28年度は、既存水質データと高頻度連続河川流量データにもとづく流出負荷量の不偏推定法(点推定量・区間推定法)を細部まで検証、確立することができた。本手法名称を従来事後IS法としていたが、IR(Importance re-sampling)法と名付けることとした。本法ではAnderson-Darling(AD)検定量に基づき事後的にPPS(probability proportional to sample size)を事後的に実現すること、およびそのために必要となるAD検定量の閾値を設定することを得た。 また、本法に基づけば、現地河川において一定積算流量ごとに水質サンプリングを実施すれば、様々な水質項目に対して効率よく負荷量推定が可能となることが理論的に示された。これを実証するため、平成27年10月から翌28年12月まで、奈良県五條市の山林流域にて流出高で5mm毎に採水を実施し、TN,DTN,TP,DTP,リン酸態リン、溶存ケイ酸、COD、DCOD、SS、各種イオン(Na, K,Ca,Mg,Cl,硫酸イオン、硝酸イオン)の水質分析を行った。採水は自動採水機により行い、台風時の大出水時にはテレメータを利用し欠測が生じないようサンプリングを実施した。この結果、流量に対して様々に異なる応答特性を有する複数の水質項目に対して、効率的な流出負荷量の不偏推定量を与えることのできるサンプリングが、現実に低コストで実施しうることを立証できた。なお、各々の流出負荷量の推定に関しては、現在検証計算を行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現段階で、研究計画提案時に提示されていた未解決の課題である、(1)従来の水質観測データに基づく流出負荷量の不偏推定法の確立、と(2)適切な流出負荷量推定のための現地観測法の確立、の二つの目的がほぼ実現・到達されている。 (1)についてはAD検定量の利用と重点的サンプリング(Importance sampling)を実現するためのPPSサンプリングを満足させるためのAD検定量の閾値をシミュレーションを通じて定めることを得た。これにより、同時期の連続的高頻度流量データを必要とするものの、どのような水質標本であっても、流出負荷量の不偏推定を実現できるようになった。 (2)については、以下の通りである。IR法のサンプリング頻度とタイミングはべき乗型LQ式の指数パラメータの値と流量データにより決定される。多くの水質項目でこのパラメータ値は1.0~2.0の値をとる。この範囲であれば、一定積算流量毎に採水を行う、すなわち流量の大きさに比例した確率で採水すれば、効率よく流出負荷量の不偏推定が可能となる。これを実現するためには、一定積算流量毎の採水を実現する自動採水機と、降雨出水時の採水状況を把握することのできるテレメータシステムが、採水機の最大保有採水試料数を使い切らないために必要である。これと類似したシステムが過去に米国の研究者により開発されたものがあったが、取り扱いの困難さとハードウェア開発の敷居の高さのため他に利用されることはなかった。このシステムが現在では市販の自動採水装置に標準的なオプションを加えることでより、比較的安価(150万円程度)で実現可能であることが、14ヶ月にわたる現地サンプリング実験で確認された。 以上より、当初目標がほぼ達成されているものの、論文公表が未だ遅れているため、進捗状況としておおむね順調であると判断している。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度である平成29年度は、現地観測がすでに完了しており、基礎的な流量観測データと水質濃度データの整備が完了しているため、これらを用いた検証計算と論文公表が主な内容となる。本年度に計画している公表論文の内容は、(A)流出負荷量の不偏な点推定法に関するもの、(B)流出負荷量の適切な区間推定法に関するもの、(C)それらを援用した、種々の水質試料に適用可能な流出負荷量の不偏推定法(IR法)とそれにもとづく現地サンプリング手法の提案、(D)IR法に基づく現地モニタリング法の適用例、の4つである。検証計算は(A)~(C)までがすでに完了して、投稿前の段階にあり、(D)についてはこれから検証計算に取りかかるところである。 特に(D)については、i)目的の負荷量推定精度を達成するための調査設計方法の提示、ii)我が国で行われている従来のLQ式による算定法、降雨流出一括型のLQ式による算定法と本法の比較による従来法の問題点の具体的提示、iii)目的推定精度と実際に得られた推定精度の比較を通じ、(対数)正規分布を基準として、山林から流出する窒素、リン、有機物、溶存イオンなどの負荷量分布の特性の評価、の3つの観点から検証を行う予定である。 あわせて、上記流出負荷量推定法のさらなる改良、すなわち推定精度の向上や、時間・季節・年代とともに変遷する水質濃度の長期変動にも対応しうる不偏推定法についても、検討を加える計画である。
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Causes of Carryover |
平成28年度当初は、国際誌への三編をひとまとめとした論文投稿を予定していたが、論文執筆の遅れのため、英文校正・出版費用を次年度の平成29年度に繰り越す必要が生じたためである。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成29年度に入って早い時期に、早速投稿予定の論文の英文校正と投稿に取りかかるため、繰り越し分については事実上問題なく執行できる見通しである。
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