2015 Fiscal Year Research-status Report
イヌ皮膚線維芽細胞におけるセラミド代謝物による炎症制御
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15K07728
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
杉谷 博士 日本大学, 生物資源科学部, 教授 (20050114)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 線維芽細胞 / 炎症 / インターロイキン1β / プロスタグランジンE2 / シクロオキシゲナーゼ2 / NF-κB / MAPキナーゼ |
Outline of Annual Research Achievements |
創傷治癒は,受傷の直後に生じる出血と凝固止血に始まり、その後の炎症反応による壊死組織・細菌等の除去、肉芽組織の形成、再上皮化、マトリックス形成と続き、組織修復の終了後は、それ以上の炎症反応や細胞増殖を抑制し定常状態に戻るという複雑な生物学的事象である。そのため、炎症メカニズムを明らかにすることは皮膚機能再生のために重要と考えられる。皮膚の創傷治癒の場合、最終的な組織修復を担うのは線維芽細胞と表皮角化細胞である。そこで、イヌ皮膚由来線維芽細胞における炎症メカニズムに関与する細胞内シグナル伝達について検討した。炎症性サイトカインの1つであるインターロイキン-1 (IL-1) に起因する様々な生物学的反応はプロスタグランジンE2 (PGE2)を含むプロスタノイドを誘導する能力による。イヌ皮膚由来線維芽細胞をIL-1βで刺激を行うと、PGE2放出が認められ、PGE2合成に変わるシクロオキシゲナーゼ-2(COX-2)mRNAの発現が上昇した。MAPキナーゼ系のMEK/ERK阻害剤はこのIL-1βの効果を阻害した。また、Nuclear factor κB (NF-κB) は炎症を含む種々の細胞機能制御に関わる転写因子の1つとして知られているが、この阻害剤はIL-1βの効果を阻害した。これらのことから、IL-1β誘導性のCOX-2 mRNA発現にはMEK/ERK経路とNF-κBの活性化が関与することが示唆された。さらにNF-κB阻害剤を作用させるとIL-1β誘導性のMEK/ERK経路の阻害が認められ、また、NF-κBの阻害因子であるIκBαをノックダウンすることによりMEK/ERK経路の阻害も認められた。これら結果より、IL-1β刺激がNF-κBを活性化し、MEK/ERKの活性化を介してCOX-2発現を増強し、PGE2放出し、イヌ皮膚炎症に関わることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
イヌ皮膚由来線維芽細胞の初代培養においては、間質細胞が含まれている可能性があるため、細胞表面抗原など特異なマーカーを使用して線維芽細胞であることの同定を試みる必要がある。しかし、両細胞には同様な表面抗原マーカーの発現が認められるため、表面抗原マーカーを利用した方法での同定は極めて難しい状況である。しかし、イヌ脊髄間質細胞を分離培養し、そこに発現する神経系マーカーであるネトリン、エフリン、セマフォリンのmRNA発現をリアルタイムPCRにて検討し、皮膚由来線維芽細胞における発現と比較したところ、どのマーカーのmRNA発現も間質細胞では有意に高いことから、本研究に使用しているイヌ皮膚由来線維芽細胞は、線維芽細胞としての十分な機能を有していることが示唆された。また、IL-1β刺激によるCOX-2発現に関する細胞内シグナルとして一般に知られているMEK/ERKからNF-κBを介する経路ではなく、NF-κBがMEK/ERKの調節因子として機能することは、従来の報告とは大きく異なっている。転写阻害剤を用いた検討からもIL-1βによるNF-κBの活性化はある認められるものの、転写を必要とせずにMEK/ERKの活性化を惹起することが認められており、新たなNF-κBの機能も考えられる。これらの細胞内シグナルが明確になったことにより、イヌ皮膚由来線維芽細胞におけるセラミド代謝物の効果を明確に評価することができることとなったため、研究はおおむね順調に進展していると思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
既に確立した初代培養法を用いてイヌ皮膚由来線維芽細胞を培養し、セラミド代謝物であるスフィンゴシン、スフィンゴシン-1-リン酸、セラミド-1-リン酸およびセラミドによるプロスタグランジンE2 (PGE2) 放出をELISAにより測定する。また、シクロオキシゲナーゼ-2(COX-2)mRNA発現をリアルタイムPCRにより検討する。IL-1β刺激により明らかにされた細胞内シグナル、特にMAPキナーゼ系への関与を、阻害剤を用いた薬理学的検討を行う。また、実際のMAPキナーゼの活性化を、特異的リン酸化抗体を用いてイムノブロット法により検討する。NF-κB活性化の関与に関しては、阻害剤を用いた薬理学的検討に加え、NF-κBを形成するサブユニットのリン酸化および抑制タンパク質の発現を。特異的抗体を用いて同様にイムノブロット法により検討する。また、ゲルシフトアッセイ法を確立し、NF-κBの転写活性への影響を検討する。さらに、セラミド代謝物の単独の効果に加え、IL-1β誘導性の効果に対するセラミド代謝物の効果を検討する。以上のことにより、セラミド代謝のイヌ皮膚炎症への関与を考察する。
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