2015 Fiscal Year Research-status Report
ウシの黄色ブドウ球菌性乳房炎の慢性化におけるCXCL8の持続的放出の役割
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15K07731
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Research Institution | National Agriculture and Food Research Organization |
Principal Investigator |
渡部 淳 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 動物衛生研究部門病態研究領域, 上級研究員 (60442810)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 獣医学 / 感染症 / 免疫学 / 生体分子 / 動物 |
Outline of Annual Research Achievements |
黄色ブドウ球菌は酪農に大きな損害を与える牛乳房炎の主要な原因菌の一つである。黄色ブドウ球菌による乳房炎は慢性化した場合、その治癒はきわめて困難である。よって黄色ブドウ球菌性乳房炎による生産性の損耗を防止するためには、乳房炎慢性化機構を明らかにし、その知見に基づく予後診断が重要である。本研究では黄色ブドウ球菌性乳房炎の亜急性期~慢性期において乳汁中にケモカインCXCL8が乳腺上皮から持続的に放出されることに着目し、その放出メカニズムと当該乳房炎の臨床病理との関連を解明することを目指している。CXCL8放出機構の一つとして、催炎性ラクトフェリン由来ペプチド(ラクトフェリンの好中球エラスターゼ分解産物)が乳腺上皮細胞からの放出を刺激する系を想定している。 本年度はエラスターゼが死滅した好中球より放出されるという説に基づき、自然発生および実験的に誘発した黄色ブドウ球菌性乾乳期乳房炎における好中球細胞死の実態、乳中の好中球エラスターゼ活性、CXCL8濃度及び催炎性ラクトフェリン由来ペプチド濃度との関係を調べた。多数の好中球が含まれる乳中凝集物の病理学的検査により、実験例及び自然発生例共に乳房炎発症後3日目から死滅した好中球が見られ、約1~3週後には大半の好中球の死滅と細胞核DNAの放出が観察された。乳中の好中球エラスターゼ活性及び催炎性ラクトフェリン由来ペプチドは乳房炎発症後3日目より、CXCL8濃度は4~6日目より明らかに増加し、以後、高値を維持した。乳中凝集物の免疫組織化学的検査により、好中球細胞外トラップが乳房炎発症後3~20日目に散見されたが、アポトーシスはほとんど見られなかった。以上から黄色ブドウ球菌性乳房炎における乳中CXCL8濃度の持続的増加には催炎性ラクトフェリンが少なくとも部分的に関与し、その産生には好中球細胞死により放出されたエラスターゼが関わることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
自然発生および実験的に誘発した黄色ブドウ球菌性乳房炎慢性化における乳中CXCL8濃度の持続的増加には催炎性ラクトフェリン由来ペプチドが少なくとも部分的に関与することを示唆した。ラクトフェリンを分解して催炎性ラクトフェリン由来ペプチドを産生する好中球エラスターゼは、好中球細胞死に伴って放出されること、その細胞死には壊死と細胞外トラップ形成が関与することを示唆した。ただし催炎性ラクトフェリン由来ペプチドが結合する乳腺上皮細胞の受容体を探索する試験についてはプローブを作製する段階にとどまった。
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Strategy for Future Research Activity |
炎症時の乳腺におけるCXCL8の主要な産生細胞は乳腺上皮細胞である。黄色ブドウ球菌性乳房炎における乳中CXCL8濃度の増加には、催炎性ラクトフェリン由来ペプチドによる乳腺上皮細胞からの放出刺激が関与することが示唆された。標識を付した合成催炎性ラクトフェリン由来ペプチドをプローブとして用い、催炎性ラクトフェリン由来ペプチドが結合する乳腺上皮細胞上の受容体を探索し、部分精製を試みることによりその受容体を同定する道筋を探る。
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