2015 Fiscal Year Research-status Report
カイコガを利用した体内受精型動物の精子成熟機構の解明
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15K07793
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Research Institution | Kyoto Institute of Technology |
Principal Investigator |
長岡 純治 京都工芸繊維大学, その他部局等, 助教 (00303933)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 昆虫 / 精子 / 成熟調節 / プロテアーゼ / カルシウム |
Outline of Annual Research Achievements |
課題①:Initiatorin (BmIni) 基質タンパク質としてのカルボキシペプチダーゼB (BnCPB)の同定 貯精のうで特異的に発現するBmCPB遺伝子から得た大腸菌組換えタンパク質は,BmIniで活性化され,この時,BmCPBからは2つのペプチドが生じており,その分子質量は,既知の昆虫CPB等との相同性から予想されるpro-mature切断候補領域 内で切断された場合に生じるものに相当していた。そこで,当該領域のArgを改変した組換えタンパク質を作成し,活性化への影響を調査したところ,不活性なBmCPBは,3つの連続するアルギニン (Arg) 残基のC末端で特異的に切断され,活性化することが明らかになった。BmIniは連続した2つのArg残基のC末端を切断しやすい性質を持つが,BmCPBを含む基質タンパク質中のArg-Arg配列を特異的に認識することで活性調節されていることが明らかとなった。
課題②: 精子内シグナル伝達の解析 哺乳動物や棘皮動物において精子成熟の初期誘発段階で関係するカルシウムイオンに注目し,未成熟カイコガ精子に対して,精子成熟誘発剤としてのトリプシン処理を行なう前に,カルシウムイオン透過担体Calcium ionophore A23187を添加し、その後細胞内キレート剤BAPTA-AMをさらに添加することで今までよりも高い割合で,in vitroで精包と同じような変化を再現出来るようになった。また, 精子内のPKA活性を評価により,成熟反応開始の伴う,活性の上昇と,精子を構成するタンパク質のチロシンリン酸化の変化が精子成熟の開始に伴い,生じていることが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
Initiatorin基質タンパク質として,カルボキシペプチダーゼBの同定がほぼ完了し,かつ平成28年度に計画していた新たなInitiatorin基質タンパク質の探索方法確立ならびに一部同定に持ち筋が立った点は、当初予定以上の進捗である。これにより,次年度への費用面での適切な対応も可能となった。 一方、精子成熟に係わるシグナル伝達系に係わるカルシウムイオンの存在を明らかにした点については,ほぼ予定通りの進捗である。しかし,これを人工授精に供して,その意義を解析するまでには至らなかった点は,多少の遅延と考える。しかし,現在、速やかに検討に入る準備は整いつつある。
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Strategy for Future Research Activity |
課題①:精漿・精子に存在する未知なInitiatorin基質タンパク質の同定と機能解析 平成27年度に確立したin vitro精子成熟反応再現系を用いた、Initiatorin基質タンパク質解析系をさらに改良する。その上で、成熟が進むにつれて出現するものについてcDNAの単離・発現解析を進める。また,同定されたタンパク質に対する抗体の作成ならびにノックダウンにより機能解析を進める。
課題②: 精子内シグナル伝達の解析 精子運動の獲得には、NOの関与が予想される。一般的にNOの作用は細胞膜を通過し、細胞質内に存在する可溶型グアニル酸シクラーゼを活性化する。また、合成されたcGMPは、Gキナーゼを活性化して、Ca2+濃度の調節に関与する。これらの情報を踏まえ、①精漿・精子におけるcGMPの定量と精子成熟に伴う変動を検討する。②グアニル酸シクラーゼが精漿または精子のいずれに存在するか検討する。③精漿・精子内のCa2+の定量と精子成熟に伴う変動を検討する。④NO作用によって生じるS-ニトロシル化される精漿・精子タンパク質の探索を行なう。
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Causes of Carryover |
Initiatorin基質タンパク質の同定を平成27年度と同様な方法にて進めるが、タンパク質の正体が判っても,データベースに類似した配列が登録されてなく,そこからの機能予測が困難であるという問題が十分に予想された。そのため,新たに機能解析を進ませるための実験系ならびに評価系の構築を進める研究費の確保が必要であるので,これを次年度使用額にまわした。 また,精子成熟過程でタンパク質のリン酸化状態が変化していることを平成27年度に効率よく見出したが,ターゲットとなっているタンパク質、S-ニトロシル化タンパク質を二次元電気泳動法により解析し,同定を目指す必要が生じたので,その分を見越し,次年度使用とした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成29年度までに,精子成熟に係わる複数のタンパク質が明らかにし,その機能を明らかにし,さらに,それらの相互関係を中心に検討していくことが本研究の目的である。そのため,次年度使用金を利用して,リン酸化タンパク質やS-ニトロシル化タンパク質,イニシャトリン基質タンパク質の同定を速やかに進める。この中には既知のものが含まれていることが期待されるので,その情報をもとに考えられる細胞情報伝達システムについて,再度,in vitro精子成熟再現系を用いての検証を行なう。以上の結果をまとめ,精子成熟に係わる精漿・精子,さらに両者を取り持つ分子カスケードを整理し,既知の動物精子の成熟化メカニズムと比較することで,本研究の目的である,カイコガを使った体内受精型精子成熟システム解明の有効性を評価する。
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