2015 Fiscal Year Research-status Report
昆虫の膜脂質特性を与えたリポソームを用いた溶質輸送調節の解析
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15K07795
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Research Institution | Tottori University |
Principal Investigator |
東 政明 鳥取大学, 農学部, 教授 (20175871)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
泉 洋平 島根大学, 生物資源科学部, 准教授 (10457210)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 昆虫細胞膜 / アクアポリン / グリセロール輸送 / 尿素輸送 / カイコ / 幼虫休眠 |
Outline of Annual Research Achievements |
昆虫の組織特異的な溶質輸送機能を調べることによって,昆虫細胞が有する原形質膜機能の柔軟な環境適応力を考察することを目的として実験を進めている。平成27年度(初年度)に得られた成果は以下のとおりである。原形質膜の指標となる輸送タンパク質としてアクアポリン(水チャネル)を解析している。 (1)カイコの発育中卵巣(developing ovaries)において,2種類の水選択的アクアポリンが存在し,その2者は,卵母細胞が完成するプロセスで異なる分布を示すことを発表した(Maruyama et al., 2015)。これらのアクアポリンは,水のみを通過させるので,卵形成過程で水分吸収による容積増大に関わることが示唆された。さらに,我々が以前にカイコ幼虫から同定したグリセロール・尿素をも輸送するアクアグリセロポリンが,卵母細胞を包む濾胞細胞に分布することが新たにわかった。 (2)上記のアクアグリセロポリンは,カイコの幼虫では中腸の円筒細胞で発現していることを示した(Maruyama and Azuma, 2015)。このアクアグリセロポリンの特異的抗体を作製し,幼虫が休眠相でグリセロールを多量に蓄積するニカメイガにおいてどの組織で発現しているかを調査したところ,マルピーギ管や後腸で強く発現している傾向が得られた。グリセロールを蓄積する組織として脂肪体の関与が考えられていたが,それとの関連は今後のさらなる実験が必要である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
(1)輸送活性の測定を定量的に行うための実験系のセットアップに時間がかかっている。そこで,アプローチを変えて,発育中の卵巣を用いて,卵内への取込実験も行っている。 (2)卵形成期の卵は,卵の量的・質的拡大が容積増大に伴って起こる。つまり,外来性のタンパク質(vitellogenin)や卵自身が合成するタンパク質だけでなく,発育中の卵は,糖質などその他の低分子溶質を取り込んで,グリコーゲンや脂質として卵中に蓄積する。いずれの溶質にしても送達輸送される方向は,卵の中心へ向かうので,14C-glycerol や14C-urea の輸送活性を現在測定しているところである。 (3)ニカメイガ幼虫のように休眠する幼虫の特定の組織細胞における脂質変化については,これまでに正確な検証が,組織や発育時期特異的にはなされておらず,原形質膜など細胞の膜成分を構成する脂質(特にリン脂質)の変化についての精度の高いデータは得られていない。これは平成27年度より取り組んでいる実験であるが,休眠相におけるニカメイガ幼虫の特徴的な組織における脂質分析とグリセロール分析を引き続き実施している。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)膜小胞を用いた輸送活性や人工膜を使用するより単純な輸送システムの構築へ向けて,引き続き実験を進める。 (2)休眠昆虫の低温適応力の指標として,膜脂質の特徴付けを目指す。 (3)発育中卵巣での取込実験は,複数の細胞から成る複雑な系になるが,一定の発育ステージの卵の一定数(5~10ヶ)を用いると,定量的な評価がやりやすくなると考えられるので,引き続き取込み実験の系で使用する。
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Causes of Carryover |
初年度であったので,どういう方向へと進めることが効率的であるのか,慎重に予算を使っていたため,次年度使用額が発生した。また,発表論文についても Maruyama et al. (2015) はオープンアクセスであったが,特集号への掲載であったため,予定していた投稿掲載料について,かなり安価に済ませられたことも影響した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
(1)遺伝子関係の実験へと少しづつ移行するので,それに伴って消耗品経費のさらなる増大が考えられる。 (2)ニカメイガ幼虫の採集が困難を極めた。今後,生化学的な実験を進める上で,充分な実験材料の確保が必要になる。平成28年度もいろいろと全国に出かけねばならないようで,旅費が平成27年度以上に必要になると考えている。
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