2017 Fiscal Year Research-status Report
Toll-mediated signal transduction in insect cuticle
Project/Area Number |
15K07796
|
Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
朝野 維起 首都大学東京, 理工学研究科, 助教 (40347266)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | 昆虫外骨格 / 免疫 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、昆虫外骨格内で生じる免疫反応を理解するための研究である。昆虫免疫において、大変重要とされているToll経路が関わる新しい反応系について、その存在の是非等を調べることが目的である。より具体的には、Toll経路の細胞外における構成成分の一つであるセリンプロテアーゼが、外骨格特有の構成成分を特異的に消化する反応に根ざすものである。このプロテアーゼは普段は活性のない前駆体として存在し、傷やバクテリア感染に対して限定分解により活性化され、下流のシグナル系を活性化する働きをすると考えられている。 試験管内で目的のプロテアーゼを活性化させる際に、通常はカイコガ幼虫から得られる成分を用いているが、この反応にはプロテアーゼが限定加水分解によって切断される必要がある。しかしながら、目的のプロテアーゼを切断する酵素はまだ同定されていない。人工的に活性化を制御することを目的に、プロテアーゼが切断される部位にthrombinによる切断部位を導入し、実際に切断されることを確認しているが、これは、今後、ショウジョウバエで人工的に目的酵素を活性化したり、その後の反応系を研究したりするための重要な手段となりうる。 この研究は、カイコガに存在するセリンプロテアーゼを用いた研究からスタートしていることから、TALEN法によるノックアウトを試みているが、これに関しても現在進行中である。また、ショウジョウバエにおいてもCRISPR法によるノックアウト系統作成を進めているが、こちらもまだ完成には至っていない。ノックダウンによる観察では、目的分子の分解が阻害される傾向が見られるが、より明確な結果を得るためにこれらの系統作成が求められる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初、ショウジョウバエを用いて外骨格成分が分解されて生じる断片成分を強制発現させることで、どのような反応が起きるのかについて観察する予定であったが、そこに至っていないという点が大きい。これについては、現在も系統作成を進めており、出来次第、解析・観察を進める。また、ノックアウト系統の作成は完成していないものの、ショウジョウバエに関しては系統作成をするためのCRISPR用のguide-RNA系統を入手していることから、より確実な表現型観察が今後可能になると思われる。 分解産物を強制的に発現するためのショウジョウバエ系統を用いて、血球細胞や表皮細胞、脂肪体などの反応を観察することを考えている。具体的な手段としては、RNA-seqを行う予定である。未知の遺伝子発現応答が観察される可能性もあり、既知の反応経路(抗菌物質合成や、傷害時に働くシグナル経路など)の発動と、必ずしも連動する必要はない。しかし、目的の系統が作成された段階で、まず強制発現後の試料を採取し、既知の応答などの応答をあらかじめ把握することが、より有用な情報を得るための条件検討に重要であると思われる。また、ショウジョウバエを用いて人工的にプロテアーゼを活性化させた際の反応を観察することを想定し、必要な系統(thrombin及び当該プロテアーゼの切断部位をthrombinの認識部位に改変したもの)も作成中である。
|
Strategy for Future Research Activity |
外骨格特有の成分が分解されて生じる分子は、傷や感染に対して作られると考えられる。また、外骨格は表皮細胞層の外側にあることから、分解物が体内に入った場合、必然的に表皮細胞層を貫くような異変が生じていることを意味する。自然免疫の分野において、病原由来の物質が活性化する免疫応答や病原認識分子に関する研究が当初盛んだったが、宿主自体の組織が破壊されて生じる反応についても、近年進展が目覚ましい。本研究は、昆虫における傷害認識の新たなシグナル経路の発見を目指す、という位置付けがなされる。加えて、すでに広範に認められている「多細胞動物に広く保存されていて、かつ重要なシグナル系=『Toll経路』」と直接的に関連する。これらの状況を鑑み、現在進めている研究をそのまま継続し、少なくとも計画の最終年度の次年度中に、RNA-seqを用いたショウジョウバエの解析を行い、各組織が外骨格分解物によってどのような応答をするのかについて情報を得たい。これは、その先にあるシグナル系全体像の解明に向けた糸口を得るという点で、特に重要と言える。 昆虫において、Toll経路の細胞外シグナル伝達に関係する経路は、抗菌物質などの合成に関わるものとして注目されているが、もう一つの重要な免疫反応と言われているメラニン合成に関わるシグナル経路とのクロスオーバが見出されている点も興味深い。メラニン合成系で進行する化学反応経路は、昆虫独自の外骨格硬化(強化)の化学反応経路とも密接に関わっている。そのため、本研究は、本研究とは別に申請者が進めている外骨格硬化の分子機構研究と密接に関わりあう。外骨格内でおきる防御に関係する種々の仕組みを有機的に結びつける新たな分子の発見などを通じて、1)昆虫外骨格が如何に昆虫の繁栄・成功に関与してきたのか?や、2)他の節足動物と昆虫とを分ける特殊性とは?、などについてより深い理解に到達したい。
|
Causes of Carryover |
最終年度までに計画していたRNA-seqなどの委託解析を進めるために、本来であれば必要なショウジョウバエ系統などが完成していることが必須条件であった。また、目的の系統が作出されたのちも、解析に供する適切な試料を得るための条件検討をする必要もある。本計画で予定した目的の解析を行うにあたり、次年度に解析可能になった段階で、速やかに本来の目的に予算を使用するための処置である。また、最終年度については申請者が内臓系の疾患・体調不良により2ヶ月ほど通常の勤務を抑えていた期間があり、その間の進捗が期待されるものでなかった点が大きい。
|
Research Products
(1 results)