2016 Fiscal Year Research-status Report
ブナ林の重要な景観要素として捉えるササ群落の光環境順応メカニズム
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15K07828
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
坂本 圭児 岡山大学, 環境生命科学研究科, 教授 (90205766)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
廣部 宗 岡山大学, 環境生命科学研究科, 准教授 (20363575)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | チシマザサ / ブナ林 / 生理生態 / フェノロジカルギャップ / 葉の寿命 / 稈の寿命 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は昨年度に引き続き,調査対象林のブナ林において,ブナ林冠下,ホオノキ林冠下,および林冠ギャップ下で,チシマザサの稈の追跡調査,葉の追跡調査,および個葉の光合成速度の測定を行った。 まず稈密度について過去の測定データから変化を検討したところ,ブナ林冠下に比べギャップ林冠下では稈の新規加入密度が高く,ギャップの形成が幹密度を高めることが明らかになった。同時にホオノキ林冠下ではもともとブナ林冠下より幹密度が高く,それによって稈の新規加入密度が高かった。継続測定によって葉群の入れ替わりを検討したところ,旧葉数と新葉数の変化から,ブナ林冠下で葉の入れ替わり速度は最も遅く、ギャップ下で最も早いと考えられた。しかし,ブナ林冠下,ホオノキ林冠下,およびギャップでの入れ替わり速度には,有意な差がみられなかった。個葉の最大光合成速度については,昨年度は葉の窒素含有量から光合成速度を推定したが,本年度は実際に光合成速度を測定することによって比較した。光合成速度はギャップ下で最も高く,ブナ林冠下で最も低い傾向があったが,ブナ林冠下とホオノキ林冠下では有意な差は無かった。春先にホオノキ林冠下で生じるフェノロジカルギャップの効果は,個葉レベルの光合成速度には反映されないのかもしれない。今後も測定を継続して確認する必要がある。 以上のように林冠の違いによる光環境によって生理生態的特性に違いがみられ,チシマザサはそのような光環境の違いに順応していることが示唆された。しかし,閉鎖林冠下の中でブナ林冠下とホオノキ林冠下の違いは明確ではなかった。実際に違いがないのかあるのか,今後さらに研究を進めることによって明らかにしていきたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度までの成果で,少なくとも閉鎖林冠下とギャップ下の間で,葉の寿命と生産速度,及び稈の寿命と生産速度から,葉の寿命や稈の寿命と生産との関係にはトレードオフの関係があること,その関係が林冠タイプの違いによることが明らかになった。しかしながら,閉鎖林冠下の中でブナ林冠下とホオノキ林冠下の違いが明確ではなかったため,これについてはもう少し検討の余地が残された。そのため,成果の論文化は閉鎖林冠下とギャップ化の比較でまず始めることになり,現在執筆中であるが遅れている。また,稈密度の変動に関しても現在論文執筆中であるが遅れている。さらに,本年度光合成の測定を5月,8月,および10月に実施したが,昨年度に発生した葉のみの測定であり,葉齢の異なる葉の光合成速度の比較を行うことができなかった。目標を達成するためには,葉齢の異なる葉を対象として光合成速度を測定する必要がある。これらの点が不十分であるため,本年度の達成度としてはやや遅れている。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度いくつかの測定項目については目的に沿って調査を実施することができた。しかしながら,本研究では齢が異なる稈と葉を対象として,齢による違いによる生理生態的特性を明らかにすることによって異なる光環境に対する順応性を明らかにすることができるので,それを十分考慮に入れた調査測定を今後精力的に進めていかなければならない。また,明確な結論が得られていないので,成果の論文化が遅れているが,明確な部分だけでも論文化する予定である。 今後,課題となっている測定項目について実施するとともに,チシマザサがクローナルプラントであることを考慮し,生理的統合を視野に入れ,林冠が異質な林冠タイプで構成される林床に生育することがチシマザサ群落全体でどのように適応的なのか,どのようなササ景観を形成するのかを明らかにすることを試みたいと考えている。
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Causes of Carryover |
データ整理と解析の補助のため謝金の支出を予定していたが,それまでの補助要員によって作業を終えることができたため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度は最終年度であり,取得データ量が増えるため,本次年度使用額をそのデータ整理と解析補助のための謝金に使用する予定である。
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Research Products
(1 results)