2016 Fiscal Year Research-status Report
芳香環間のカップリング反応を基軸としたエラジタンニン類の合成研究
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15K07854
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Research Institution | University of Toyama |
Principal Investigator |
阿部 仁 富山大学, 大学院理工学研究部(工学), 教授 (70221728)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | グルコース / 軸不斉 / 没食子酸 / 酸化的フェノールカップリング |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度は、植物性ポリフェノールの一種であるエラジタンニン類の合成に際して、糖部分の水酸基の区別が困難であり、全合成には至らなかった。今年度では、反応条件を精査することにより、グルコースの2位と3位の反応性をある程度制御することができたため研究が大きく進捗した。 1)Oenothein C の合成:すでに、本研究において valoneic acid dilactone の合成が完了していたため、その知見を基に oenothein C の合成を完了した。すなわち、グルコースの1位に valoneic acid dilactone を縮合し、さらに3位に没食子酸を導入することで、標的化合物の合成が完成した。 2) Cornisiin B の合成:Oenothein C の合成中間体を用いて、グルコースの6位と4位にパラ位を保護した没食子酸誘導体をエステルとして導入し、山田らの手法を用いた分子内酸化的フェノールカップリングを行なった。カップリングの際には、軸不斉部分は完全に立体選択的に制御され、続く脱保護の工程を経て、標的の cornusiin B が合成できた。 3)Coriariin B の合成:これまでに合成法を確立しているデヒドロジガル酸誘導体ををグルコースの1位に結合させ、2位と3位には没食子酸を、さらに4位と6位には軸不斉を有するヘキサヒドロキシビフェニル(HHDP)基を導入することにより、coriariin B の全合成を達成した。この際にも山田らの方法を用いて軸不斉部分を構築した。 その他、現在 rugosin B, isorugosin B, isoschimawalin A, などのエラジタンニン類の合成を進めており、次年度の完成を目指している。また、エラジタンニン類の重要部分構造であるイソデヒドロジガル酸や、ターガロイル酸などの合成についても検討中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前年度に、グルコース上の複数の水酸基の区別が難しく、計画通りに合成を進めることができなかった。今年度は反応条件を精査することによって、その問題を克服できた。これにより、様々な進展がみられ、計3種類のエラジタンニンの全合成を達成した。 それと同時に、これまでに合成がなされていない数種の重要部分構造の合成を行うことができた。これにより、より複雑な構造を有するエラジタンニン類の合成を行うための準備が整ったといえる。このような理由から、本研究課題は、概ね順調に進んでいるといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題としてはこれまでに3種類のエラジタンニンの全合成が達成できたため、今後はより複雑な構造を持つ者の合成にとりかかる。まずは、全メチル隊の合成を完了している isorugosin B と rugosin B の合成を行なう。これらの分子についてはあと数工程の段階にまで至っているものの、途中工程で再現性が乏しい個所があり改善を要する。この部分の検討を行なった後、全合成に向かう。 次に、グルコースの水酸基に valoneoyl 基、 galloyl 基、および valoneoyl acid dilactone グループがエステル結合した schimawalin A と isoschimawalin A の全合成を行なう。すでに、cornusiin B の合成が完了しているので、途中工程までは同様の経路で誘導可能である。しかし、グルコースの4位と6位に結合させるべきものが valoneoyl 基であることが問題となる。Cornusiin B の場合は、対称構造のビアリールであったが、scimawalin A の場合は非対称ビアリールであり、従来法を用いることができない。そのための方策について詳細に検討したい。 また、これまでに全合成報告がない、punicalin および punicalagin の合成に挑戦する。前年度において、これら化合物の重要部分構造である tergalloyl 基の合成をラセミ体ではあるが達成した。この分子の二か所のカルボン酸部位をうまくグルコースの4位と6位に結合させる工程が鍵となる。これら一連の反応について検討を行なう。 その他にも nilotinin D4 などの合成を通して、エラジタンニン類の網羅的合成法を確立したい。さらに、合成した各種化合物を用いた代謝実験などの生物学的研究についても準備を進める。
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Causes of Carryover |
化学実験に使用する際の溶媒類の購入に充てる計画であったが、使用済み溶媒を回収再利用することができたため、わずかながら残額が発生した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
実験をより効率的に実施するため、化合物の精製の際に必要となる有機溶媒の購入に使用する予定である。
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Remarks |
この研究課題に関して、日本学術振興会「ひらめき☆ときめきサイエンス」を実施した。
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