2015 Fiscal Year Research-status Report
顕微ラマン分光によるがん細胞の電場アポトーシス誘起機構の解析
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15K07884
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
平松 弘嗣 東北大学, 薬学研究科(研究院), 助教 (90419995)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中林 孝和 東北大学, 薬学研究科(研究院), 教授 (30311195)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 電場効果 / ラマン分光法 / アポトーシス / HeLa細胞 |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度はまず、細胞に対する電場印加のための微小電極を作成した。微小電極はφ50 μmのタングステンワイヤー(金メッキ)を金属棒(φ2、銅)にハンダ付けすることで作成した。この電極をXYZ微調ステージに取り付け、顕微鏡の明視野で細胞を選択して電場印加することを可能にした。パルス電場発生装置としてAvtech Electrosystems社製 電気パルス発生器(AVL-5-B-P)を購入し用いた。この装置により、幅8 ns~100 ns、強度0 ~ 450V(繰り返し周波数 最大2 kHz)の矩形波電場パルスを印加することが可能である。この微細電極電場印加システムを研究室現有のラマン顕微鏡(日本分光、NRS-3100S)および水浸型対物レンズ(×60、LUMFL N、オリンパス)と組み合わせることにより、細胞電場応答解析のためのラマン分光システムを開発した。 この装置を用いて、細胞培養液中のHeLa生細胞のラマンスペクトル測定に成功した。タンパク質および核酸のラマンバンドの強度及び振動数が文献の値と一致することを確認した。微細電極電場印加システムを用いてHeLa細胞に電場を印加したところ、電極間にある細胞のみ形状が小胞化し、細胞形状が変化することを確認した(電極周辺の細胞には形状変化は認められなかった)。この結果は文献と一致する。死細胞の検出試薬であるPropidium iodideにより染色されたことから、この小胞化は細胞死に関連することを示した。以上の結果から、我々は電場アポトーシス誘起現象の発生を確認したと考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本課題では電場アポトーシス誘起を最大効率で起こすパルス電場波形の特徴を明らかにすることが目的である。がん細胞モデルとしてHeLa細胞を用い、パルス電場の「強度」「パルス幅」「継続時間」を変数として①細胞懸濁液に対する、カスパーゼ活性測定による電場アポトーシス誘起の発生効率の測定、②単一細胞に対する、顕微ラマン分光法を用いたパルス電場効果の検証、を行う。電場アポトーシスを最大効率で発生させるパルス電場形状を明らかにし、印加電場の周波数分布との対応関係を検討する。また、細胞内で起こる生体分子の電場応答を解明し、電場アポトーシス誘起の発生機構解明を目指す。 本課題の初年度~2年目には「A. 細胞集団に対する電場アポトーシス誘起効率の測定(マクロ測定)」「B. ミクロ測定用電場印加装置の構築」「C. 電場アポトーシス誘起に伴う細胞中生体分子の構造変化解析」の実施を計画している。これらのうち、初年度に「B. ミクロ測定用電場印加装置の構築」を完了し、実際にHeLa細胞の電場印加による細胞死が起こることを実証した。この実験においては、HeLa細胞の形状の変化を顕微鏡明視野像の変化として記録することに成功した。また「C. 電場アポトーシス誘起に伴う細胞中生体分子の構造変化解析」に関して、生細胞のラマンスペクトル測定(488 nm励起)を実現し、タンパク質および核酸のラマンバンドを確認した。本項目に関しては今後、電場印加直後からラマンスペクトルの時間変化測定を行う予定である。ラマンスペクトルの時間変化を測定することにより、細胞死に伴う生体分子構造変化(具体的にはタンパク質および核酸の「空間分布変化」および「分子構造変化」)の様子を検出し、解析する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
2年目は、初年度の実施内容を継続するかたちで「A. 細胞集団に対する電場アポトーシス誘起効率の測定(マクロ測定)」ならびに「C. 電場アポトーシス誘起に伴う細胞中生体分子の構造変化解析」を行う。 「A. 細胞集団に対する電場アポトーシス誘起効率の測定(マクロ測定)」に関しては、エレクトロポレーションを行うための汎用セルとパルス電場発生器を組み合わせ、培養細胞懸濁液に対する「マクロ測定用電場印加装置」を構築する。HeLa細胞の懸濁液に電場を印加する。その際「電場強度」「パルス幅」「電場印加継続時間」を変数とする。電場印加後の電場アポトーシス誘起の発生効率の経時変化を測定する。蛍光試薬を利用して、アポトーシスが起こる際に放出されるタンパク質分解酵素(カスパーゼ)の活性を測定し、アポトーシス発生効率を評価する。アポトーシス発生効率と印加電場形状の対応関係を解析することで、細胞がどのような形状の電場を印加する時にアポトーシスを誘起するか解析する。この結果を基に、高いアポトーシス誘起効率を持つ電場の形状を明らかにする。 「C. 電場アポトーシス誘起に伴う細胞中生体分子の構造変化解析」に関して、ラマン顕微鏡と電場印加システムを組み合わせた測定装置を構築する。対物レンズと電極の空間的配置に工夫する。電場印加後、細胞の形状を確認しながら、まずは細胞核(核酸)およびミトコンドリア(シトクロムc)の空間分布および構造変化に注目してラマンスペクトルの解析を行う。核酸では断片化、シトクロムcではミトコンドリアからの漏出が起こる可能性に注目する。前項で検討した電場形状のうち、アポトーシス誘起効率が高い場合と低い場合での応答の相違を検討する。また、核酸とシトクロムc以外の生体分子の分布および構造の変化もあわせて検証する。
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