2015 Fiscal Year Research-status Report
新規がん遺伝子TRBファミリー分子による発癌作用の分子基盤の解明
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15K07937
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Research Institution | Nagoya City University |
Principal Investigator |
林 秀敏 名古屋市立大学, 薬学研究科(研究院), 教授 (80198853)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | TRB1 / TRB3 / がん幹細胞 / TGF-b / Foxo1 / HDAC1 / p53 / CD44 |
Outline of Annual Research Achievements |
TRB1は多くの腫瘍細胞で高発現していることが知られているが、我々はTRB1がTRB3同様、がん抑制遺伝子産物であるp53タンパクと結合し、p53の転写活性を阻害していることを見出した。p53が正常であるヒト乳がん細胞株MCF7細胞のTRB1をノックダウンすることにより、細胞増殖が低下するとともに、p53の標的遺伝子の発現がp53依存的に上昇した。これはTRB1が脱アセチル化酵素であるHDAC1と結合し、p53にリクルートすることにより、p53のアセチル化を阻害し、標的遺伝子のプロモーター領域への結合を抑制することにより引きおこされていることを明らかにした。 また、MCF7細胞のTRB1をCRISPR/Cas9法により欠失させると、増殖が低下するとともに、そのスフェロイド形成能も強く抑制されることを見出した。野生型のMCF細胞では恒常的に活性化していたERK経路、AktがこのTRB1欠失MCF7細胞では強く抑制され、がん幹細胞のマーカーの一つであるCD44、及びそのvariant(CD44v8-10)の発現が低下していた。CD44v8-10は細胞内へのcystineの取り込みを促進し、ROSに対する抵抗性獲得に寄与していると考えられているが、TRB1欠失細胞では細胞内ROS濃度が上昇していることもわかった。この現象は正常細胞では見られず、複数の腫瘍細胞株(H1299, MDA-MB-231, A375 等)で普遍的に見られた。 さらに、細胞増殖を負に制御することが知られている転写因子Foxo1の活性もTRB1は強く阻害することを見出した。 以上のことから、TRB1はp53の活性低下、Foxo1の阻害、ならびにがん幹細胞形質の維持に働き、がん細胞の増殖、進展に寄与していると推察された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成27年度は主に、TRB1のがん発生・進展における役割に関する研究を進め、がん抑制遺伝子のp53やFoxo1の活性阻害作用、がん幹細胞の維持促進作用などを明らかにした。また、発癌のプロモーターであるPMAやがん細胞の転移能促進などに働くTGF-betaによってTRB1は発現誘導が見られ、そのメカニズムの解析を進めている。TGF-betaのシグナルは今まで阻害作用のみを示すと考えていたが、新しく腫瘍の悪性化には正に働くことを見出し、そのシグナルの使い分けについても解析を行っている。さらに、TRB1の示す様々な作用をエピジェネティック制御という観点で研究を進めており、既に複数の制御因子との結合、さらには活性阻害を明らかにしている。
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Strategy for Future Research Activity |
1. p53 が欠損、あるいは変異している腫瘍細胞における TRB1 の働きを解明する。 2. TRB1のがん幹細胞維持作用の可能性については、他のマーカーの調査するとともに、CD44をモデルにして、そのTRB1による転写活性化の機序の解明を進める。また、TRB1高発現によるによるERKやAktの活性化、p38の活性低下の機序についても明らかにする。 3. TRB1によるFoxo1の転写活性化能の抑制メカニズムを主に、エピジェネティックな制御の観点から解析を進める。 4. TGF-beta シグナルにおいて、TRB1は増殖阻害作用は抑制に、転移能促進作用は増強する傾向があることから、この点を検証するとともに、この二相性の作用の機序について明らかにする。
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Research Products
(19 results)