2016 Fiscal Year Research-status Report
細胞内ホスホリパーゼA1の新しい機能の探索と病態への関与
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15K07946
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Research Institution | Teikyo University |
Principal Investigator |
山下 純 帝京大学, 薬学部, 教授 (80230415)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | ホスホリパーゼA1 / ホスファチジルイノシトール / ホスファチジン酸 / リゾホスファチジルイノシトール / リゾホスファチジン酸 / 細胞増殖 / 細胞生存 / ミトコンドリア |
Outline of Annual Research Achievements |
レトロウイルス発現系を用いて、 DDHD1(PA-PLA1)およびその活性変異酵素(S537A)を培養膵臓癌細胞Pに発現し、安定発現細胞株を樹立した。ピューロマイシンにより、発現細胞を選択すると、DDHD1(PA-PLA1)およびその活性変異酵素(S537A)の発現細胞株のコロニーの出現の割合は、コントロールウィルスを用いた場合に比べ低かった。そこで、DDHD1(PA-PLA1)およびその活性変異酵素の発現細胞の細胞増殖を調べると、コントロールの細胞に比べ、細胞増殖活性が低下していた。特に活性変異体の発現は細胞増殖の阻害効果が高かった。また、細胞を低密度でまき、コロニー形成能を比較すると、コントロールと比べて、コロニー形成能が低下しており、発現細胞は生存も低下することが示唆された。 フローサイトメーターを用いて細胞周期を解析すると、DDHD1(PA-PLA1)およびその活性変異酵素の発現細胞では、G2/M期で細胞周期が一部停止することが明らかとなった。また、M期に亢進することが知られるヒストンH3のリン酸化を調べると、発現細胞で減少しており、M期の手前すなわちG2期で細胞周期が停止することが明らかとなった。 DDHD1(PA-PLA1)およびその活性変異酵素を発現する培養膵臓癌細胞を用いて、ミトコンドリアの活性を検討した。MitoTrackerは呼吸に依存したミトコンドリア染色試薬で、この試薬の取込みをフローサイトメーターを用いて測定した。コントロール細胞に比べ、発現細胞では、MitoTrackerの取込みが高かった。MitoTrackerの取込みは脱共役剤の添加で阻害されることより、呼吸(電子伝達系)に依存することが確かめられた。すなわち、DDHD1(PA-PLA1)およびその活性変異酵素(S537A)の発現により、ミトコンドリアの呼吸が亢進することが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
DDHD1(PA-PLA1)の遺伝子変異が遺伝性痙性対麻痺(hereditary spastic paraplegia; HSP)という神経変性病を起こすことを見出したことがきっかけで、この酵素の破綻が病態に関与することを考えた。 神経細胞と膵臓癌細胞に違いはあるが、DDHD1(PA-PLA1)の(調節)破綻が癌細胞の細胞周期に影響を及ぼし、細胞増殖や生存に影響を与えることを見出した。 また、 DDHD1(PA-PLA1)の遺伝子変異がミトコンドリア機能の低下、 DDHD1(PA-PLA1)およびその活性変異酵素(S537A)の発現がミトコンドリア機能の亢進に繋がることを明らかとした。
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Strategy for Future Research Activity |
1)癌細胞はミトコンドリア機能が低く保たれており、エネルギー代謝の大部分を解糖系が担うことが知られている(ワーブルグ効果)。DDHD1(PA-PLA1)によるミトコンドリア機能亢進をより定量的に観察するために、DDHD1(PA-PLA1)およびその活性変異酵素(S537A)の発現細胞の酸素消費速度(Oxygen Consumption Rate, OCR)と細胞外酸性化速度(Extracellular Acidification Rate, ECAR)を測定する。種々のミトコンドリア阻害剤(Oligomycin,FCCP, rotenone/antimycin A)を添加した場合の代謝パターンを測定して、DDHD1およびDDHD1の活性変異体(S537A)の発現による代謝変化を検討する。 2)癌細胞のミトコンドリア機能と生存の関連が提唱されている。ミトコンドリア機能が低く保たれていることが、癌細胞が過酷な状況でも生存することと相関するというものである。DDHD1(PA-PLA1)と活性変異体の発現によりミトコンドリア機能が亢進することで、代謝のバランスが変化して、生存を負に調節する可能性がある。抗癌剤処置や栄養酸素飢餓などによる細胞死を検討し、DDHD1(PA-PLA1)との関連を明らかにする。 3)DDHD1(PA-PLA1)の活性変異体(S537A)を発現すると細胞増殖が低下することを見出した。DDHD1の機能と細胞周期の関連を明らかにする。DDHD1の発現と細胞周期関連タンパク質の関連を調べる。特にサイクリン(cyclin)とサイクリン依存性キナーゼ(CDKs, cyclin-dependent kinases)との関連を詳細に検討する。また、ミトコンドリア分裂関連因子がサイクリン依存性キナーゼにより修飾を受けることも報告されているので、その関連を明らかにする。
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Causes of Carryover |
当該年度の事業は、大学からの研究費、他の助成金を用いることでまかなうことができた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
戻入された研究助成金は次年度使用する。ミトコンドリアの機能亢進をフラックスアナライザーで解析する。また、細胞周期関連因子の抗体などを購入する費用に当てる予定である。
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Research Products
(13 results)