2015 Fiscal Year Research-status Report
結合軸の回転制御による軸不斉化合物の創製と創薬への応用
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15K08030
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Research Institution | Teikyo University |
Principal Investigator |
高橋 秀依 帝京大学, 薬学部, 教授 (10266348)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
児玉 浩子 帝京大学, 医学部, 教授 (00093386)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 軸不斉 / アミド / ウレア / カルバマゼピン / 三環性中枢作用薬 |
Outline of Annual Research Achievements |
アミドの平面性に由来する軸不斉は、多くの医薬品に潜在しているが、ほとんど注意を払われていない。医薬品のキラリティーは、その薬理作用に大きな影響を与えるため、潜在する軸不斉を明らかにし、より良い医薬品の分子設計・合成に活用することを目的として本研究を遂行している。 今年度は、これまで検討してきたアミドの軸不斉だけでなく、それに類似する構造に生じる軸不斉を表出させることに取り組んだ。まず、カルバマゼピンについて検討した。カルバマゼピンはたいへん古くから用いられている三環性骨格を有する中枢作用薬である。三環性骨格(イミノスチルベン骨格)は、多くの医薬品に含まれるが、中央の7員環部分がボート型のコンホメーションをとり、そのボートの反転にあわせて三つの環が蝶のように常に動いている。特に、カルバマゼピンの場合は、イミノスチルベンのN-カルバモイル化体(ウレア)であり、軸不斉が生じる可能性がある。これまで、ウレア構造に潜在する軸不斉について検討したことはなく、キラルHPLC、VT-NMR、及びX線結晶構造解析などを利用してその立体構造を追究した。その結果、ウレアに由来する軸不斉は、アミドのそれと比較して不安定であり、室温下で軸不斉異性体を単離することはできないとわかった。そこで、ペリ位に立体障害となる置換基を導入してイミノスチルベンのN-カルバモイル化を行い、得られた誘導体の立体構造を調べた。キラルHPLCにより、この化合物には軸不斉異性体が安定に存在し、単離できることがわかった。安定性は高く、室温で数日ほとんど異性化しない化合物も得られた。 単離した異性体の立体構造の詳細を調べつつ、薬理作用についても今後検討していく予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初予定していたアミド構造以外に由来する軸不斉異性体の存在を検討することができているため、おおむね順調と判断した。 医薬品に存在する軸不斉については、これまでアミド化合物を用いて検討してきた。本研究課題は、アミド化合物について得られた知見を元にして、他の部分構造についても軸不斉が潜在するのではないか、という推定をし、妥当性の高い化合物について検討を始めている。今年度は初年度であるが、ウレア構造について、軸不斉の存在を明らかにし、アミド構造と比較して、軸不斉の安定性がやや低くなることもわかった。このようにウレアの特性を明らかにすることができた点は、着実な進展と考えている。また、ウレアだけでなく、チオウレアについても検討をしており、ウレアよりは若干安定性に優れた軸不斉異性体を与えるものの、アミドよりは劣ることも明らかになりつつある。今後も、アミドと類似する様々な部分構造について軸不斉異性体が潜在することを明らかにしていく。 また、本研究課題は、軸不斉の存在を明らかにするための方法論の確立においても進展があった。これまでは、計算化学を用いたシミュレーションは行ってこなかったが、本課題研究では、計算化学にも取り組み、立体構造の予想と、それに基づくNMRのスペクトルデータの予想も行っている。まだ論文発表するには至っていないが、かなりの確率で実際の立体構造を具現化することができており、将来に役立つ新たな方法論が確立されつつあると言える。この点も鑑みて、順調な進展と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
研究計画に記したように、さらに多くの部分構造について軸不斉異性体の存在を明らかにしていく。ヒドラジンやセミカルバゾンについて軸不斉の存在を検討したい。それぞれ得られた軸不斉異性体の安定性を、これまでのアミド構造と比較し、各構造ごとの軸不斉異性体の安定性を明らかにしていく。 特に、セミカルバゾンについては、Menkes病治療薬の創出も目的としており、ねじれ構造を利用した新たな銅輸送医薬品として開発したい。銅イオンは平面性の高い錯体構造をとると安定であるが、この錯体にねじれ構造を導入すると、不安定性が増し、銅イオンが放出される。このねじれの変化を脳内で起こせば、脳内で選択的に銅イオンが錯体構造から外れるため、脳選択的な銅イオンの輸送が可能になる。このようなねじれ構造をもたらす反応として酸化反応について主に検討し、銅の脳への選択的な輸送に役立つ医薬品候補化合物を創出する。
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Causes of Carryover |
当初購入予定であったダイセル社製のキラルカラムの発売が予定よりも遅くなり、28年度以降となったため、次年度以降の予算に組み込んで使用することとした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
当初の予定通り、キラルカラムの購入に充てる予定である。
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Research Products
(10 results)