2016 Fiscal Year Research-status Report
生活環境に起因する肥満の増悪におけるケトン体利用経路の寄与に関する研究
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15K08048
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Research Institution | Hoshi University |
Principal Investigator |
山崎 正博 星薬科大学, 薬学部, 准教授 (80328921)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 臭化難燃剤 / 脂肪細胞 / アセトアセチルCoA合成酵素 |
Outline of Annual Research Achievements |
臭化難燃剤が、我々の見出した新規ケトン体代謝酵素、アセトアセチルCoA合成酵素(AACS)と利用経路に与える影響を明らかとするために、以下のような実験を行った。 まず、臭化難燃剤が脂肪細胞における脂質蓄積とAACSの遺伝子発現に与える影響を培養脂肪細胞3T3-L1およびST-13細胞を用いて検討した。対照として、マウスメラノーマ細胞であるB16F10細胞、白血病細胞株であるHL60、破骨細胞系であるRAW264を用いた。その結果、テトラブロモビスフェノールA(TBBP-A)については、成熟脂肪細胞ではAACSの遺伝子発現、脂肪滴の質的・量的変化は認められなかったが、未分化な脂肪芽細胞では、AACSの遺伝子発現が有意に上昇した。また、脂肪細胞の分化状態を褐色脂肪細胞傾向に向かわせるLSD-1についてもTBBP-Aによる発現誘導が認められた。その際脂肪細胞分化マーカ(PPARγ)は変動が認められなかった。対照として用いたB16F10細胞、RAW264細胞(M. Yamasaki et al., BBRC, 2016)およびHL60細胞(A. Sakai et al., BBA, 2017)では顕著な結果は認められなかった。 また、アデノ随伴ウイルスベクターによるAACS発現抑制下での実験系(S. Hasegawa et al, FEBS Lett., 2017)だけでなく、CRISPR-Cas9系を用いたAACSノックアウトマウスを構築し、予備的な結果を得ている。 以上の結果は、本邦で使用されている臭化難燃剤TBBP-Aは分化後の白色脂肪細胞には大きな影響を与えないが、未分化な細胞に対してはケトン体の基質利用を促し、脂肪細胞の質的変化を誘発する可能性を示唆しており、脂肪細胞の分化段階によって肥満毒性が違うことが想起される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
臭化難燃剤について、ポジティブコントロールとして使用する予定であった肥満を増悪することが既報であるヘキサブロモシクロデカン(HBCD)が、本邦で製造されていない輸入品であり、且つ海外でも製造機製品であることから受注生産に近い状況であり、昨今の欧州における国際状況に因る化学薬品の製造・輸出入の規制の厳格化とそれを受けて本学において培養細胞系で使用するに十分な量を購入・確保することが困難な状況となった。 HBCDの件については、昨年度より厳しい状況であり、予定していたモデル動物を用いた実験やアレイ解析を入手可能なTBBP-AとDBDEについて実験系に変更する必要がでた。この件については、本年度に得られた未分化細胞特異的なTBBP-Aの結果から、TBBP-A投与でも食餌負荷などで既報のDBDEとは異なった新たな知見が得られると予想される。
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Strategy for Future Research Activity |
TBBP-Aおよび他の臭化難燃剤を指標とし、培養細胞および肥満モデル動物を使った各種遺伝子発現への影響の検討を行う。特に肥満モデル動物を用いる実験では、TBBP-Aを用いた若年期からの長期投与実験を新たに行う予定である。これは、TBBP-Aが本邦で使用が許可されており神奈川県において土壌中から検出されている報告もあることと、本年度行った培養細胞で脂質代謝やAACSに対して明確な影響が主に未分化な細胞で認められたことをあわせて考えると、脂肪組織が未発達の長期曝露による動物実験から得られるデータが有意義と判断したためである。さらに、培養細胞においては臭化難燃剤の影響をAACS遺伝子発現の人為的抑制により打ち消せるかどうか、その際に相関する因子は何かをアデノ随伴ウイルスおよびAACSのノックアウトマウスを用いた実験により明らかとする。 また、当初の予定通り細胞内酸化的ストレスに関する検討も行う。昨年度構築したB16メラノーマ細胞でアミノトリアゾール(AT)による細胞内過酸化水素ストレス上昇の実験系(本成果はフォーラム2015衛生薬学環境トキシコロジーにて報告した)を用い、臭化難燃剤の影響を見る。 さらに申請者はAACSが骨分解にも関与するという新たなデータを得た(本成果は2016年衛生薬学環境トキシコロジー、2017年日本薬学会にて報告した)ことから、こちらについても実験を進めており、本年度の未分化RAW264細胞の結果を踏まえて、分化誘導などに対する臭化難燃剤の影響を検討する。一方、レプチンのシグナル経路については未分化脂肪細胞中心の実験系に移行することに伴い、実験全体の進行度合いを考慮して進める予定である。 以上のように、29年度は臭化難燃剤のAACSを介した脂質-ケトン体代謝経路へ与える影響と、それが各種細胞・組織の分化・発達段階に応じているかを明らかにする目的に実験を遂行する。
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Causes of Carryover |
臭化難燃剤について、肥満を増悪することが既報であるヘキサブロモシクロデカン(HBCD)が、本邦および海外での製造規制品であること、昨今の欧州における国際状況に因る化学薬品の製造・輸出入の規制の厳格化、それを受けて本学での指定薬物を用いた動物実験の認可審議の推移から、本剤を用いた実験系は排泄物処理などの関係で困難となった。また、本年度得られたTBBP-Aが未分化脂肪細胞に特異的な影響を持つという性質は、既報のHBCDの結果とは大きく異なっており、本邦で使用が許可されているTBBP-Aを用いた実験系に移行するほうが有意義であると思われることから、HBCDを用いた実験系は中止し、TBBP-Aによる系へと完全に抗する判断をした。 それに伴い、予定していたモデル動物を用いた実験やアレイ解析を延期し、実験系の再検討を行ったため一部実験の関連予算が未使用となった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
TBBP-Aを用いた実験系については、組み直した系を用いて本年度動物実験を実施する。また、その他複数の臭化難燃剤のスクリーニングを行い、比較検討を行う予定である。
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