2016 Fiscal Year Research-status Report
サルモネラのVBNC状態への移行と増殖可能状態への復帰及び病原性発現機構の解析
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15K08051
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Research Institution | Osaka University of Pharmaceutical Sciences |
Principal Investigator |
天野 富美夫 大阪薬科大学, 薬学部, 教授(移行) (90142132)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | VBNC状態 / サルモネラ / 乾燥耐性 / 抗体産生誘導 / ストレス応答 |
Outline of Annual Research Achievements |
VBNCサルモネラを効率よく調製し、VBNC状態から増殖可能な状態への復帰試験に応用可能な条件を設定するため、乾燥耐性獲得の方法を詳細に検討した。対数増殖期のサルモネラを洗浄して生理食塩水あるいはM9培地、LB培地などに懸濁後、乾燥用のフィルター付きチューブに入れて室温で一晩、自然乾燥させた。従来の研究から、リン酸塩あるいはLB培地中の有機物の添加が、復帰率の高いVBNC菌の誘導に重要であることが示されたが、本年度は新たに、乾燥開始時の菌密度が重要な要因であり、至適条件が1x10e8 CFU/mLであることを明らかにした。次に、VBNC菌を用いたマウスの免疫では、生理食塩水存在下で乾燥して大部分をVBNC状態にした菌(A)と、LB培地存在下で乾燥して大部分が増殖可能な菌(B)を調製した。これらをホルマリン固定して病原性を無くした後、今年度はBALB/cマウスの皮下に毎週1回、計4回ずつ投与して免疫した。各群5匹ずつのマウスから採血して血清を分離し、対数増殖期の生菌、ホルマリン固定した上記の(A)及び(B)の菌に対する凝集価を測定した。その結果、菌(A)を投与したマウスは5匹中2匹の血清が菌(A)を凝集したが菌(B)は凝集せず、また生菌も凝集しなかった。一方、菌(B)を投与したマウスは5匹中1匹の血清が菌(B)と生菌を凝集したが菌(A)は凝集しなかった。現在、菌(A)、菌(B)、ならびに対数増殖期の生菌から菌体抽出物を調製し、SDS-PAGE/Western blotting法で各血清と反応させ、VBNC抗原の候補となる物質を探索している。また、VBNC菌の復帰の過程で出現が観察されたサルモネラ菌体表面の繊維状構造に反応する抗体を作製するため、鞭毛抗原FliC及び線毛抗原FimHのリコンビナントタンパク質を大腸菌で発現させ、それらをウサギに免疫することを検討している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
本年度は、VBNC状態のサルモネラを、免疫だけでなく生化学的な解析に十分な量を調製する必要があることが分かったため、VBNC菌の大量かつ効率的な調製の方法を検討した。その結果、従来の研究で明らかになった栄養因子(リン酸塩、LB培地成分)、遺伝因子(SEp22の発現)に加え、新たに、乾燥開始時の菌の密度が重要であることを見出した。しかも、最適な乾燥条件が、1x10e8 CFU/mLであるため、乾燥チューブ1本に0.01 mLずつを添加する本実験の方法では、免疫に使用する菌の量、それ以上に生化学的な解析に使用するための菌の量を回収することが非常に困難であった。本年度は、この菌の密度効果に関する検討を行い、必要な菌体量を確保するため、標準の菌の密度条件の100倍の1x10e10 CFU/mLを使用した場合のVBNC状態の誘導を確認した。その結果、VBNC状態の誘導の割合が1/10程度に低下したが、生化学的な解析に必要なサンプル量を確保できたので、この条件を使用することにした。これらの条件設定にかなりの時間を要したため、研究の進捗が遅れた。本研究の目的である、VBNC状態の菌に特異的な抗原を同定して抗体を作製するためには、マウスへの免疫と採血、抗体価の評価と同時に脾細胞の分離培養が必要である。本研究を進めて明らかになったことは、ミクロスライド凝集法による抗体価と特異性の評価のためには、VBNC菌を抗原としたときの抗血清の交差反応性をいかに迅速に調べるのかが重要で、マウスの免疫で得られる抗血清の量が少ないため、かなりの困難を伴う。次年度は、この点を改良するとともに、VBNC状態からの再活性化の過程で出現することが認められた、菌体表面の鞭毛(FliC)、線毛(FimH)様の構造を特異的に認識するウサギの抗体を作製することを検討する。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度行ったVBNC菌のマウスに対する免疫は、ミクロ凝集法でVBNC菌に反応するが増殖する菌には反応しない血清が得られたので、SDS-PAGE/Western blotting法を用いて、VBNC菌に選択的に発現している抗原の候補を探索する。また、免疫条件を少し変更しながら、VBNC状態の菌に特異的に発現する抗原に対する探索を継続する。種々の反応条件を変更させながら、今後も継続してこの実験を行う。さらに、昨年度にも検討課題として記載したが実施に至らなかった、VBNC菌のマーカーとなる可能性があるFimA, FimHの組換え体の作製、それらのウサギへの免疫と抗血清の調製、及びその抗体を使用してVBNC菌特異的な認識をする抗原の解析と同定、など、最終年度の平成29年度には、当初の研究目的の達成に向けて一層、努力する。
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Remarks |
大阪薬科大学生体防御学研究室ホームページ http://www.oups.ac.jp/kenkyu/kenkyuushitu/seitaibougyo.html
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